長岡高専

長岡工業高等専門学校・電子制御工学科

< RSSによる更新情報 最終更新日時: 2023-02-02 >

クローズアップEC【Vol.014】
特集:R03年度卒業研究,表彰テーマの紹介

金賞
「情報端末の内蔵カメラを用いた運動再現システム」
 平田 蓮(制御工学研究室/指導教員 外山)

スポーツの指導において,単純にカメラを用いて選手を撮影し後から見直すだけではなく,選手の動きをデータ化し,より定量的な科学的指導に繋げることが近年重要視されている。 そのための,様々なハードウェア及びソフトウェアが開発されている。

本研究では,競技の中でチームとしてのフォーメーションの取り方が勝敗を大きく左右するバレーボールに注目した。 試合の映像から選手の位置を推定することで,自チームはもちろん,相手チームの選手位置をデータ化するシステムを開発した。 このシステムにより,攻撃時,守備時のフォーメーションを見返すことができ,科学的な指導につなげることができる。

システム開発は,選手の位置を推定するために,AlphaPoseと射影変換を用いている。 AlphaPoseは,画像内の人物の位置と姿勢を検出するアルゴリズムである。 検出された選手の姿勢から,両足の中点を計算し,そこを選手の画像内における床面上の位置とする。 次に,射影変換を用いて画像内における位置から,現実世界における床面上の位置を推定する。 射影変換は任意の四角形を他の四角形に変換するよう構成する。 画像に写るコートが構成する四角形をコートを真上から見た形になるように射影変換を施すことで,画像全体が床面を真上から見たように変換される。

今後の課題として空中にいる選手位置,ボールの位置に関する推定アルゴリズムの検討が挙げられる。

銀賞
「重力波データ解析におけるAkima Splineを用いて拡張したHilbert-Huang変換の 性能評価」
 陽田 樹(データサイエンス研究室/指導教員 酒井)

中性子星(NS)は中性子が高密度に分布した天体であり,重い恒星の超新星爆発によって形成される。

中性子星の構造を決める状態方程式(EOS)の解明は宇宙物理学や原子核物理学の重要課題であり,現在はいくつかの仮説が提唱されている段階である。 先行研究では,時間-周波数解析の手法の1つであるHilbert-Huang変換(HHT)を用いて,連星中性子星(BNS)合体後に構成される高質量中性子星(MNS)による重力波の瞬時周波数の時間発展を調べることで,EOSに関する情報が得られることが確かめられた。 一方で,HHTは比較的新しい解析手法であり改善の余地が多数あるため,改善によるさらなる高精度化が期待できる。

本研究では,HHTにおける極値を接続して包絡線を求める処理を,従来のCubic SplineからAkima Splineと呼ばれる補間法に置き換えることでHHTを拡張し(AS-HHTと呼ぶ),その性能評価を行う。 AS-HHTの性能評価のために,Hyp-EOSとShen-EOSと呼ばれる2つのEOSに基づくBNS重力波を対象とした解析を行う。 具体的には,MNSからの重力波データが含まれる区間における時間と瞬時周波数の共分散を求め,周波数変化の特徴を数値化することで,EOSの判別が行えるかどうか評価する。 MNSによる重力波の周波数変化は,Hyp-EOSでは時間とともに上昇するのに対し,Shen-EOSではほぼ一定であるとされている。 したがって,時間と瞬時周波数の共分散は,Hyp-EOSでは正の値を示し,Shen-EOSではおよそ0を示すと考えられる。

重力波データに加えるノイズデータを1000通り用意し,それぞれに対して上述の解析を行った。 その後,それぞれのEOSでの共分散の推定値の分布に対してMann-WhitneyのU検定を適用し,重力波源との距離と検定によるp値の関係を調べた。 p値が低いほど2つの分布が同じであるという帰無仮説が強く棄却され,EOSが判別しやすいということである。 AS-HHTの方が従来のHHTよりも遠い距離の重力波源に対しても2つの分布を区別でき,有意水準を1%とすると,判別可能な距離が約2.25倍になることがわかった。 これは,EOSが判別可能なBNS合体の検出頻度が約11倍になったことを意味する。

今後は,他の天体現象による重力波に対してもAS-HHTが有効であるかを調査していく。

銅賞
「有機電界効果トランジスタにおける自己組織化膜と伝達特性の関係解明」
 長部 稜子(有機光デバイス研究室/指導教員 皆川)

近年,急速なInternet of Things (IoT)技術の発展に伴い,生活における様々な場面で,インターネットを用いたシステムが活用されている。 医療現場においても,地方の高齢化・病院数の減少,現在では新型コロナウィルスの影響もあり,IoT等を活用した遠隔診療システムの早急な整備・拡充が求められている。

一方,血液検査等の生化学検査を受けるためには病院に行かなければならないのが現状であり,患者の大きな負担となっている。 このため,患者が安全に自身の検体を採取でき,迅速に医師と共有できるような自己検査キットの開発が必要とされている。

これに対し,我々は有機電界効果トランジスタ(organic field-effect transistor; OFET)に注目した。 OFETは,軽量で印刷法による大量生産が可能であり,伸縮性があることから,高感度生体センサ(バイオセンサ)としての応用が期待されている。 しかし,これを実現するためには,測定範囲をより広く,測定精度をより高くする必要があり,出力電流が大きいOFETや,立ち上がり電圧の低いOFETなど,様々な伝達特性をもつOFETの開発が不可欠である。

出力電流を大きくする方法はいくつか報告されているが,チャネル上に形成されるキャリアトラップを低減するためにはOFET基板表面をself-assembled monolayer (SAM)処理することが一般的となっている。 しかし,どのようなSAM膜が最も出力電流を増大できるかはまだ明らかにされておらず,それぞれのSAM膜においてどのような伝達特性が得られるかも明らかにされていなかった。

そこで,本研究では組成系統の異なるSAM膜を形成したOFETを実際に作製し,伝達特性を測定・比較することで,SAM膜の種類と出力電流の関係を調べた。 さらに,それぞれのSAM膜を成膜した基板上に純水を滴下し,その接触角を測ることで,疎水性と出力電流の関係を明らかにすることを目的とした。

それぞれのOFETを「真空蒸着法」と呼ばれる方法で作製したところ,左図(図1)のような特性が得られた。 また,OFETのSAM膜を「スピンコート法」と呼ばれる方法で形成し,一般に疎水性がよいOFETの特性がよくなるという理論に基づいて,基板に純水を滴下し,その接触角を調べたところ,右図(図2)のような結果が得られた。 図2を見るとわかるように,OFETの出力電流は接触角におおよそ相関することが明らかになった。

このように様々な出力電流をもつOFETを用いることで,遠隔診療で安全に使用できる検査キットを作製することができるのではないかと考えた。 今後は,酵素電極法などを用いて様々なグルコース濃度に対するOFET電流値を機械学習させ,濃度未知の溶液におけるグルコース濃度を推論できるモデルを構築し,唾液中血糖値センサの開発につなげていく予定である。

特別賞(学会発表を行った学生)

  • 「大振幅振動下における圧電縦効果セラミック振動子の高調波」,清水 誠矢
  • 「圧電素子における大振幅特性の簡易測定解析法の検討」,中川 太一
  • 「定在波音場内における複数の球形微小物体の非接触浮揚の観察」,目黒 祐太
  • 「VRを用いた視覚機能の測定・評価システムの開発」,小林 翔
  • 「バーチャルグリッドを用いた操船支援システムの開発」,小林 みう
  • 「課題遂行時の集中度及び理解度の評価指標の検討」,小日向 慶人
  • 「情報端末の内蔵カメラを使用した運動再現システム」,平田 蓮
  • 「近赤外線文光法を用いた脳機能面からの平衡感覚の評価」,藤田 悠生
  • 「有機トランジスタにおける自己組織化膜と伝達特性の関係解明」,長部 稜子
  • 「両極性有機半導体層に対するポリエチレンイミン化合物の電子注入性評価」,酒井 じゅりあ
  • 「脳波の時間周波数解析と機械学習による瞑想の深さ判別手法の開発」,阪田 竜士
  • 「IoTを活用したトマト生育における自動潅水・計測システムの構築」,髙野 新士
  • 「ニューラルネットワークによるリングダウン重力波抽出のためのバンドパスフィルタの構築」,高野 光生
  • 「重力波検出データ解析におけるAkima Splineを用いて拡張したHilbert-Huang変換の性能評価」,陽田 樹
↑Top