USB メモリ活用講座
【基礎編・Web ブラウザのポータブル化】

< 最終更新日: 2020-12-14 >

ポータブル化可能な Web ブラウザを選ぶ

Web ブラウザを USB メモリに入れて持ち運ぶことは,かなり需要が高いようで,有名どころのブラウザの多くには日本語対応のポータブル版が開発されています. Windows 10 以降は標準 (default) の Web ブラウザが IE (Internet Explorer) から Edge に移り,Edge も独自のレンダリングエンジン開発をやめて Google Chrome と同じ Blink (WebKit) を採用することがアナウンスされるなど,Web ブラウザに関する状況も本講座の開講当初から変わってきました. 以下では,数か月に 1 度以上の頻度でバージョンアップが行われ積極的に開発が進められている Web ブラウザを「モダン Web ブラウザ」,バージョンアップがあまり行われなくなった Web ブラウザを「レガシー Web ブラウザ」として分類し,後者は「参考」扱いとします.

様々なポータブルアプリケーションを配布している PortableApps.com から入手することができる,日本語対応のモダン Web ブラウザの代表的なものを 表1に示します. また,そのほかのポータブル化可能な日本語対応のモダン Web ブラウザを 表2 に,参考としてポータブル化可能なレガシー Web ブラウザを 表3 に示します.

表1・PortableApps.com から入手可能な日本語対応のモダン Web ブラウザ [2020-12-14 時点の情報]
項目 Mozilla Firefox Google Chrome SRWare Iron Opera
レンダリングエンジン Gecko Blink (WebKit)
最新バージョン 83.0 87.0.4280.88 85.0.4350.0 72.0.3815.320
ダウンロードサイズ(MB) 113MB 1.59MB 66.3MB 62.5MB
ディスクサイズ実測値(MB) 406MB※1 206MB※2 201MB 172MB
THE HTML5 TEST scores 514※1 528※2 525 526
PDF表示 ビルトイン
表2・その他の日本語対応モダン Web ブラウザ
項目 Pale Moon Vivaldi
レンダリングエンジン Goanna (Gecko) Blink (WebKit)
最新バージョン 28.16.0 3.5.2115.81
ダウンロードサイズ(MB) 30.7MB 64.3MB
ディスクサイズ実測値(MB) 80.2MB 446MB
THE HTML5 TEST scores 427 528
PDF表示 インライン/拡張機能 ビルトイン
表3・【参考】ポータブルなレガシー Web ブラウザ
項目 Opera Legacy Lunascape Sleipnir Ancia
レンダリングエンジン Presto Trident/Gecko/WebKit※3 Trident Blink (WebKit)
バージョン 12.18 6.15.2 2.9.19 1.9.132 Beta 0.6.7 Beta
ダウンロードサイズ(MB) 13.2MB 32.5MB 6.6MB 3.6MB 36.9MB
ディスクサイズ実測値(MB) 42.6MB 96MB※3 14.9MB 9.1MB 132MB
THE HTML5 TEST scores 309 312※3 312 312 524
PDF表示 インライン※4 インライン ビルトイン

表1表2表3 のレンダリングエンジンは,HTML ファイルや画像などの Web ページを構成する素材を,画面に表示するラスタ (ビットマップ) 画像として描画 (レンダリング) するソフトウェアの部品名です. Google Chrome などのレンダリングエンジンは,厳密には Blink が使われているのですが,派生元の Webkit の名前で呼ばれることも多いようです. なるべく汎用的な Web ページを作成したい場合は,IE (レンダリングエンジンは Trident) や Edge (レンダリングエンジンも Edge) で正常に表示されるかを確認するだけではなく,他のレンダリングエンジンを搭載した Web ブラウザによる表示も確認すべきでしょう.

表1表2表3 のダウンロードサイズは,インストールに必要な実行ファイルのファイルサイズを調べたものです. ディスクサイズは,実際に クラスタサイズ 4096 バイト (4K バイト) でフォーマットされた USB メモリ (USB メモリの準備 参照) にインストールしたときの大きさ (ディスク上のサイズ) です.

表1表2表3THE HTML5 TEST scores は,最新の HTML 規格である HTML5 への対応状況の採点結果で,score が大きいほど対応項目が多いことを示します. 確認時におけるテストプログラムは Version 8.0 で,満点は 555 点であるようですが,同じ Web ブラウザでもホストとなる OS のバージョンやビット数 (32bit/64bit),接続プロトコル (https/http) によってスコアが異なる場合もあるようです. 表の数値は Windows 10 64bit で計測したものです. リンクをクリックすれば,現在お使いの Web ブラウザについて採点することができます. このほかに Web ブラウザ (レンダリングエンジン) が,Web の標準規格に適合しているかを 100 点満点で採点する Acid3 Test もありますが,表1 の Web ブラウザはどれも 100 点となり差がつきません. HTML5 への対応状況については,HTML の規格を定める W3C による報告 (HTML5 Test Suite Conformance Results) なども参考にしてください.

表1表2表3 の PDF 表示は,PDF ファイルを開こうとしたとき,Web ブラウザに内蔵されている PDF 表示機能を使って表示できるものを「ビルトイン」,ホストとなる Windows PC にインストールされている Adobe Reader を利用してウィンドウ内に表示できるものを「インライン」としています. 「ビルトイン」は JavaScript などのプログラムによって PDF ファイルを HTML5 に変換して表示させるため,PDF ファイルによっては正しく表示されない,使える機能が限られる,動作が重い,メモリの使用量が多いといったことがあるかもしれません. 「インライン」は表示の際にもっとも不具合が起こりにくいはずですが,ホスト PC に閲覧の履歴などが残ってしまうかもしれません. また,ホスト PC の Adobe Reader が古いままだとセキュリティ上の問題が生じる可能性もあります (きちんと更新されていれば「ビルトイン」より安全性は高いはずですが). Pale Moon は拡張機能として PDF ビューアを追加することが可能です.

Web ブラウザは,Web ページをデザインするために,複数のブラウザで表示を確認したいという人でもなければ,どれか一つを入れておけば十分でしょう. どの Web ブラウザを選ぶかについては,普段使っているもの,ディスクサイズが小さいもの,プラグインなどの拡張性に優れるものなど,人それぞれの基準に従えばよいと思います. どれがよいか迷う方は以下を参考にしてください※5

Mozilla Firefox / Pale Moon
最初期の Web ブラウザである Netscape Navigator の流れをくむ由緒ある Web ブラウザが Mozilla Firefox です. セキュリティ面でも,プライベートブラウジング機能をはじめ,様々な設定が可能です. Firefox バージョン 5 以降は「高速リリースサイクル」を採用しているので,バージョンアップが頻繁で,最新バージョンを追いかけるのが大変かもしれません.
Mozilla Firefox, Portable Edition は PortableApps.com が扱う Web ブラウザの中で唯一 64bit 版も同梱しています※1. 通常版のほか,サポート期間が約 1 年と長く法人向けの ESR (Extended Support Release) 版,開発者向けのデバッグ機能や統合環境が組み込まれた Developer 版,Firefox から派生してメーラや HTML エディタが統合された SeaMonkey なども配布されています.
Pale Moon は Firefox から派生したオープンソースの Web ブラウザで,Firefox 57 (Firefox Quantum) 以降でサポートされなくなった古いアドオン (レガシーアドオン) の多くを引き続き利用することができます.
インストール方法については Mozilla Firefox, Portable Edition / Pale Moon のインストールをご覧ください.
Google Chrome / SRWare Iron
Wikipedia の Web ブラウザシェアの項 (日本語版, 英語版) によれば,現在おそらく最も利用率の高い Web ブラウザで,インストールが簡単で動作も軽快です. 必要に応じて 64bit 版 (test version) も入手可能です※2. Google Chrome はかなり頻繁にバージョンアップが行われるので,最新バージョンを追いかけるのは Firefox よりもさらに大変かもしれません.
PortableApps.com で配布されている Google Chrome のポータブル版では,利用するPCが変わるとパスワードや証明書,設定の一部や拡張機能が引き継がれないという制約があるようです. 詳しくは原文 (英文) の Google Chrome - App Notes を確認してください.
インストール方法や,Google Chrome と SRWare Iron の違いについては Google Chrome Portable / SRWare Iron のインストールをご覧ください.
Opera / Opera Legacy
独自のレンダリングエンジン Presto を使う Opera 12 (Opera Legacy) と,最新のレンダリングエンジン Blink (WebKit 系) を用いる Opera 15 以降 の 2 系統に分かれています. Blink (WebKit 系) を用いる Opera はさらに Windows XP/Vista にも対応する Opera 36.x Legacy と,Windows 7 以降に対応する最新バージョンにわかれています.
Opera Legacy は動作も軽快で,ディスク使用量が少ないバランスのとれた Web ブラウザです. 容量が小さい USB メモリにインストールする場合の最有力候補の一つですが,最近は大手のポータルサイトで古い Web ブラウザによるアクセスの際に警告が表示されたり,一部のサービスが利用できないこともあるようですので,自分がよくアクセスするサイトに対応しているか事前によく確認してから選びましょう (参考).
最新の Opera は,Google Chrome と同じレンダリングエンジン Blink (WebKit) を用いてはいますが,ノート PC やタブレット PC での利用時に有効と思われる「省電力モード」を搭載したり,Opera Legacy と同様に起動時の画面に Speed Dial を設定できるなど,独自性が保たれていることが魅力です.
PortableApps.com で配布されている最新の Opera ポータブル版では,利用するPCが変わるとパスワードや証明書が引き継がれないという制約があるようです. 詳しくは原文 (英文) の Opera Portable - App Notes を確認してください. また,PortableApps.com で配布されている最新の Opera ポータブル版では,メニューを日本語表示にするための作業がやや煩雑です. これに対し,現在は公式版の Opera Portable がリリースされており,インストールもとても簡単になりました.
インストール方法については Opera /Opera Legacy のインストールをご覧ください.
Vivaldi
レンダリングエンジンは Google Chrome や Opera と同じ Blink (WebKit 系) を採用していますが,Opera Legacy の使い勝手の良さを引き継ぐことを目的に開発されています. Opera Legacy と同様に Speed Dial が備わっており,キーボードによるショートカット動作やマウスジェスチャーに対応するなど,使い込むと便利になりそうな機能が多く用意されています. かなり頻繁にバージョンアップが行われるので,最新バージョンを追いかけるのは Google Chrome や Firefox 並みに大変かもしれません.
インストール方法については Vivaldi のインストールをご覧ください.
Lunascape
国産の Web ブラウザで,IE (Internet Explorer) のレンダリングエンジン Trident を用い,ポータブル化できるという特長があります. インストールオプションで Gecko,Webkit を追加することで,最大 3 種類のレンダリングエンジンを切り替えながら使用することも可能です※3. アドオンも Lunascape,Internet Explorer,Gecko (Firefox) の 3 種類に対応しています. レンダリングエンジンとして Gecko を追加しておけば,Firefox 57 (Firefox Quantum) 以降でサポートされなくなった古いアドオン (レガシーアドオン) の多くを引き続き利用することができるようです. ただし,ほかのポータブル Web ブラウザに比べると,動作が重く感じられるかもしれません.
インストール方法については【参考】Lunascape のインストールをご覧ください.
Sleipnir Portable
国産の Web ブラウザで,IE (Internet Explorer) のレンダリングエンジン Trident を用いる以前のバージョン (Sleipnir 2) のポータブル版が配布されています. 開発されてから年数の経過したブラウザで,やや動作がもたつく印象を受けることがあります. ホストとなる Windows OS の IE が新しいものであれば,ブラウザのバージョンをチェックするような Web サイトでも問題なく閲覧できるようです. 容量が小さめの USB メモリに Web ブラウザをインストールするのであれば,Ancia (Trident 版) と合わせて有力な候補となるでしょう.
インストール方法については【参考】Sleipnir Portable のインストールをご覧ください.
Ancia
軽量・高機能をうたう国産のポータブル Web ブラウザです. 当初は精力的に開発が進められていたのですが,ここ 1 年以上は Beta 版の扱いのまま更新が止まっているようです. IE (Internet Explorer) のレンダリングエンジン Trident を用いる Ancia (Trident 版) と,Google Chrome と同じレンダリングエンジン Blink (WebKit) を用いる Ancia Chrome (Blink 版) の 2 つがあります. Ancia (Trident 版) はディスク使用量が少なく,動作も軽快ですので,Beta 版であることをそれほど気にしないのであれば,容量が小さめの USB メモリに Web ブラウザをインストールする有力な候補といえるでしょう.
インストール方法については【参考】Ancia のインストールをご覧ください.

なお,Web ブラウザをポータブル化することには,どこでも自分のお気に入り (ブックマーク) が利用できたり,ホスト PC のハードディスクに自分のプライバシーに関する情報 (閲覧履歴や,クッキーなど) を残さずに済むというメリットはありますが,ホスト PC にキーロガーのようなマルウェア (malicious software) が潜んでいる場合には無力です. また,安易にユーザ認証情報を Web ブラウザに記憶させる設定などを使うと,USB メモリを紛失してしまった場合に情報流出や情報漏えいにつながる可能性が高く,大きな損失を引き起こしかねません. セキュリティホールが見つかり修正バージョンが提供された後でも,面倒だからと古いバージョンのポータブル Web ブラウザを使い続けると,ホスト PC を管理している組織や人に損害を与えてしまうことも起こりえます※4. ネットワークを利用するポータブルアプリケーションを利用する場合には,問われる責任やリスクも大きくなることを十分自覚して利用してください.

注意: ポータブル版の Web ブラウザを利用する場合には,パスワードを記憶させないなど,できるだけセキュリティを高めるよう意識した設定を行いましょう.