tlmgr コマンド
tlmgr はコマンドラインから起動する CUI 版の TeX Live マネージャです.
直観的に操作できる GUI 版の TeX Live マネージャ (tlshell) に比べるとヤヤコシイと感じるかもしれませんが,tlshell では手が届かない細かな設定変更などが可能です.
古くからの TeX ユーザは,パッケージやフォントを追加するとなると,CTAN から配布ファイルをダウンロードして,unzip などで展開 (解凍) し,ファイルやフォルダを TeX の流儀に従って正しく配置した後に mktexlsr や updmap を呼び出すといった作業を,確実にこなさなければなりませんでした.
tlmgr はそれらをひとまとめにして実施してくれるので,気軽にパッケージやフォントの追加・削除を試すことができます.
tlmgr の詳細は texdoc tlmgr から表示されるマニュアルで網羅されていますが,ここでは特に重要・便利と思われるものをピックアップして紹介します.
なお,TeX Live を NTFS フォーマットのドライブにポータブルインストールした場合や,全ユーザ向けにローカルインストールした場合には,管理者権限のコマンドプロンプトから tlmgr を起動しなければ目的の動作をしてくれない場合があります (TeX Live インストール前の予備知識 参照).
tlmgr option show- 現在の TeX Live の設定を確認します.
英文で 10 項目 (10 行) の設定値が出力されます.
autobackup,backupdir,repositoryあたりは要チェックです. tlmgr option repository value- TeX Live のリポジトリを
valueに変更します.valueに何も設定しないと,現在の設定値が表示されます.- TeX Live インストール時に「インストール後に CTAN をパッケージのアップデート元に設定」をオフにしていた場合には,ISO イメージがマウントされたドライブ (
D:/など) に設定されているはずです. パッケージを追加しようとして ISO イメージをマウントしたら,ドライブレターが変わってしまったという場合には,このコマンドで変更すればよいでしょう.valueにctanを指定すると,CTAN のミラーサイト (http://mirror.ctan.org/systems/texlive/tlnet) が設定されます (URL を正確にタイプする必要がないので便利です). - TeX Live インストール時に「インストール後に CTAN をパッケージのアップデート元に設定」をオフにしていた場合には,ISO イメージがマウントされたドライブ (
tlmgr option autobackup n- TeX Live でパッケージの更新や削除を行う場合のバックアップ回数を
nに変更します.nに何も設定しないと,現在の設定値 (デフォルトは1) が表示されます.- USB メモリのアキ容量が心配な場合は,
0としてバックアップを作成しないようにするか,次のbackupdirを変更することを検討するとよいでしょう. - USB メモリのアキ容量が心配な場合は,
tlmgr option backupdir path- TeX Live でパッケージの更新や削除を行う場合のバックアップファイルを保存するフォルダを
pathに変更します.pathに何も設定しないと,現在の設定値が表示されます. デフォルトでは TeX Live のインストール先 (U:/texlive) のtlpkg/backupsが指定されているはずです.- USB メモリのアキ容量が心配な場合は,
C:/tempのように PC のローカルディスク上のフォルダにしておくのも一案です. - USB メモリのアキ容量が心配な場合は,
tlmgr info valueまたはtlmgr list value- TeX Live のリポジトリから,
valueに関する情報を検索します.valueにコレクションやパッケージ名を指定すると,インストール済みかどうかや,サイズの目安などの情報が表示されます. パッケージ名を指定した場合のサイズは run/src/doc/bin の 4 区分になっているそうです. run はフォントの実体やスタイルファイル類,src はソースファイル類,doc はドキュメント類,bin は実行ファイル (コマンド) 類に相当するようです. コレクションを指定した場合のサイズは,そのコレクションに直接含まれるパッケージの総合計で,依存関係にあるコレクションは含まないようです.- ファイル名や,その一部分を指定すると,それを含むパッケージのリストが表示されます. 組版や PDF への変換処理の際にパッケージが見つからないといったエラーが発生したり,予想外のフォントの代替処理や PK フォント生成が行われたりしたときのトラブルシュートに役立ちます.
tlmgr install pkgpkgで指定するパッケージをリポジトリから追加 (インストール) します. 複数のパッケージを空白で区切って指定することもできるようです.tlmgr uninstall pkgまたはtlmgr remove pkgpkgで指定するパッケージを削除 (アンインストール) します.autobackupが0以外の場合には,backupdirにバックアップが作成されます.tlmgr update --selftlmgrそのものをリポジトリから更新 (アップデート) します. Windows では Perl インタプリタもアップデートされるそうです. プロキシ経由のインターネット接続をしている場合には,事前に 環境変数の設定 が必要です.tlmgr update --alltlmgrを除いた全てのパッケージをリポジトリから更新 (アップデート) します. 利用しているパッケージが多い場合には,相応の時間がかかりますので,時間にたっぷり余裕があるときに実施しましょう.--selfと--allを同時に指定することもできるようです. プロキシ経由のインターネット接続をしている場合には,事前に 環境変数の設定 が必要です.autobackupが0以外の場合には,backupdirにバックアップが作成されます.tlmgr restore pkgbackupdirにバックアップされた pkg パッケージを復元します. 削除や更新をしたら不具合が生じたような場合に,バックアップがあれば"巻き戻し"ができることになります.
jlreq のための追加作業【参考】
注意: TeX Live 2022 以降では以下の作業を行わなくても jlreq が利用できるようになったようですが,参考として残しておきます.
jlreq は W3C (World Wide Web Consortium) が示す「日本語組版処理の要件」に準拠するよう,阿部紀行氏が作成された新しいドキュメントクラスで,pLaTeX,upLaTeX および LuaLaTeX で利用できます.
TeX Live 2021 のころ,本講座の TeX Live のインストールに従った構成では,jlreq が内部で呼び出すパッケージが不足するということがありました.
組版処理で発生するエラーをなくすためには,everyhook と svn-prov の 2 つのパッケージを追加する必要があります.
これら 2 つのパッケージは TeX Live の colleciton-latexextra に含まれています.
USB メモリの容量や自分なりのポリシーに従って次のどちらかを選んで作業してください.
- collection-latexextra を丸ごと追加するには,コマンドラインから次のように入力します.
このコレクションは 1800 を超える膨大なパッケージを含んでおり,インストールには 1GB 強のディスク容量が必要です.
CTAN をリポジトリにしている場合には,特に時間にたっぷり余裕があるときに実施しましょう.
tlmgr install collection-latexextra Enter
- 必要最小限の 2 つのパッケージ追加だけを行うには,コマンドラインから次のように入力します.
こちらは 500KB 程度のディスク容量で,短時間でインストールすることができます.
tlmgr install everyhook svn-prov Enter