gnuplot はフリーで利用できる 2D/3D のグラフ作成ツールです. 簡単なコマンド入力で,数式やデータファイルからグラフを描画させることができます. グラフは画面に描画するほかに,様々な形式のファイルとして保存させることができます. ベクタ形式の EPS (Encapsulated PostScript) 画像や PDF ファイルへの出力にも対応しているので,TeX の文書に美しいグラフを挿入することができます.
ここでは,64 ビット OS 環境向けに gnuplot を USB ドライブにインストールする方法を簡単に解説します. 32 ビット版が必要という方は,以前の記事 を参考にしてください.
gnuplot のインストール
Windows 10/11 でインストール作業を行なうには,管理者 (Administrator) 権限を持つユーザで作業を行うとよいでしょう.
ここでは USB メモリを PC に挿入したときに,認識されるドライブレターが (U:
) であるものとし,このドライブのことを USB ドライブと呼びます.
gnuplot 6.0.2 を USB ドライブの usr\gnuplot
フォルダにインストールすることにします.
別のフォルダにインストールしたい人は,適宜読み替えながら作業を進めてください.
- まず gnuplot の配布ファイルをダウンロードします.
Web ブラウザで gnuplot homepage (英文) を開き,Download から Primary download site on SourceForge へと進みます.
そして,サブフォルダ 6.0.2 の中にある
gp602-win64-mingw.7z
(46.7MB, 2024-12-22) を,ローカルハードディスクの適切なフォルダ (C:\temp
など) にダウンロードしましょう※1. gp602-win64-mingw.7z
を USB ドライブのusr\gnuplot
フォルダに展開 (解凍) します.
7z
ファイルの展開には基礎編のファイル圧縮・展開 (解凍) ツールで紹介した 7-Zip Portable が便利です.
ファイルはすべて gnuplot
というフォルダ以下に展開されるので,展開先は U:\usr
と指定すればよいでしょう.
展開 (解凍) 先の指定によっては usr\gnuplot\gnuplot
に展開されてしまうかもしれませんので,エクスプローラなどで usr
フォルダ以下のディレクトリ構造を確認し,必要に応じて修正してください (usr\gnuplot
の下に bin
,demo
,docs
などのサブフォルダがあるのが正常です).
PortableApps.com Platform をランチャとしてインストールしてあれば,次のようなコマンドを実行することでも展開できます (7z
ファイルを C:\temp
にダウンロードしてある場合)※1:
U:\PortableApps\PortableApps.com\App\7-Zip\7za64.exe x C:\temp\gp602-win64-mingw.7z -oU:\usrEnter
ローカルハードディスク (C:
など) に gnuplot をインストールするのであれば,これで作業は終了で,後は usr\gnuplot\bin
にある wgnuplot.exe
を起動するだけです.
しかし,このままでは gnuplot の設定ファイル (wgnuplot.ini
) やコマンドヒストリファイル (gnuplot_history
) が,ローカル PC のユーザプロファイルフォルダ以下 (環境変数 USERPROFILE
に指定されたフォルダの中にある,Application Data
フォルダ) に作成されてしまいます.
gnuplot の設定ファイル (wgnuplot.ini
) やコマンドヒストリファイル (gnuplot_history
) を,USB ドライブ上に作成するための設定を次の gnuplot ポータブル化のための設定で紹介します.
gnuplot ポータブル化のための設定
gnuplot のオンラインマニュアルによれば,Windows 環境における設定ファイルの保存先は環境変数 GNUPLOT
で指定できるようです.
そこで,USB ドライブに割り当てられたドライブレターに応じて,環境変数 GNUPLOT
を設定して wgnuplot.exe
を起動するための VB (Visual Basic) スクリプトを作成してみます
(WSH について興味がある方は,こちら をご覧ください).
テキストエディタを起動して,次のような VB スクリプトを入力しましょう.
先頭がアポストロフィ('
)の行はコメント(注釈)となりますので,飛ばしてもかまいません.
正確にタイプする自信がない方は,ブラウザからエディタへコピー&ペーストすればよいでしょう.
' WSHでwgnuplotを起動
Option Explicit
Dim objWshShell,objFS,objEnv
Dim strDrv,strGPPath,strExec,strArg
Set objWshShell = WScript.CreateObject("WScript.Shell")
Set objFS = WScript.CreateObject("Scripting.FileSystemObject")
' カレントドライブを取得
strDrv = objFS.GetDriveName(WScript.ScriptFullName)
' gnuplot フォルダが存在するかをチェック
strGPPath = strDrv & "\usr\gnuplot"
If objFS.FolderExists(strGPPath)=0 Then
WScript.Echo strGPPath & "が見つかりませんので終了します"
WScript.Quit 0
End If
' 環境変数PATHの設定
Set objEnv = objWshShell.Environment("Process")
objEnv.Item("PATH") = strGPPath & "\bin;" _
& objEnv.Item("PATH")
' 環境変数GNUPLOTを設定
objEnv.Item("GNUPLOT") = strGPPath & "\bin"
' 起動オプションを設定
strExec = strGPPath & "\bin\wgnuplot"
For Each strArg In WScript.Arguments
strExec = strExec & " " & strArg
Next
objWshShell.Run strExec
WScript.Quit
入力し終えたら wakegp.vbs
と名前をつけて,USB ドライブ上の適当なフォルダ (U:\bin
など) に保存しましょう.
なお,保存するときには文字コード (エンコード) をシフト JIS (Shift_JIS) にする必要があるようです.
「メモ帳」でこのスクリプトを作成する方は,保存時の文字コードを ANSI に指定するとともに,ファイル名が wakegp.vbs.txt
となってしまわないよう気をつけてください (失敗したらリネームすればよいだけですが).
いよいよ動作確認です.
エクスプローラなどで USB ドライブの中身を表示し,フォルダ bin
の中にある wakegp.vbs
を起動します.
OS によっては図1 のように「セキュリティの警告」ダイアログボックスが表示されるかもしれません.
その場合は左下の「このファイル開く前に常に警告する」のチェックをオフにしてから 実行 ボタンをクリックします※1.

図2 のように gnuplot が起動されたら,第1段階は成功です.
まず,メニューバーが日本語になっているかを確認してください.
次に,画面下半分の適当な箇所でマウスを右クリックします.
図2のようにプルダウンメニューが表示されますので,その一番下の行 Update の項を確認します.
ここが U:\usr\gnuplot\bin\wgnuplot.ini
のように,wakegp.vbs
の環境変数 GNUPLOT
の設定で指定したパスになっていれば OK です.

ここまでの動作確認が終わったら,wakegp.vbs
をランチャに登録するとよいでしょう.
また,Command Prompt Portable を使う方は,commandprompt.bat
を編集して,PATH
に usr\gunplot\bin
を追加し,環境変数 GNUPLOT
を設定しましょう.
gnuplot はコマンド形式で,グラフ描画を行います. プロンプト (gnuplot>) に続けて次のような描画命令を実行してみましょう.
plot sin(x) Enter
新しいウィンドウ (gunplot graph) が開かれ,正弦波のグラフが表示されれば正常です. gnuplot のメインウィンドウ (コマンドを入力したウィンドウ) に戻って,次のような命令を実行すれば gnuplot を終了させることができます.
quit Enter
gnuplot のコマンドについて知りたい場合は,ヘルプ機能が利用できます.
例えば plot
というコマンドについて知りたい場合は,次のような命令を実行します※2.
help plot Enter
gunplot 6.0.2 では日本語で説明が表示されるはずです.
gnuplot の使い方については,usr\gnuplot\docs
以下にあるドキュメントが役立ちます.
特に User Manual (gnuplot.pdf
, 英文) はコマンドの詳細について調べることができます.
英文は苦手という方は,gnuplot homepage のトップページから User Manual の日本語版 PDF がダウンロード可能です※2.
Web の検索エンジンなどを使えば,たくさんの解説が見つかるはずです. 自分にちょうどよいレベルのものを見つけて,じっくりと学習してください.
gnuplot ポータブル化のための設定 (別解)
窓の杜のニュースによれば,VBScript は 2023 年 10 月から非推奨となっており,2027 年頃までに使えなくなるようです. まだ猶予はありますが,gnuplot を起動する別の手段としてバッチファイルによる方法も紹介しておきます.
テキストエディタを起動して,次のような内容を入力しましょう. 正確にタイプする自信がない方は,ブラウザからエディタへコピー&ペーストすればよいでしょう.
@echo off
set GNUPLOT=%~d0\usr\gnuplot\bin
set PATH=%GNUPLOT%;%PATH%
start %GNUPLOT%\wgnuplot.exe %*
入力し終えたら wakegp.bat
と名前をつけて,USB ドライブ上の適当なフォルダ (U:\bin
など) に保存しましょう.
「メモ帳」でこのスクリプトを作成する方は,ファイル名が wakegp.vat.txt
となってしまわないよう気をつけてください (失敗したらリネームすればよいだけですが).
動作確認の説明は省略します.
ちなみに,wakegp.vbs
と wakegp.bat
が同じフォルダ (U:\bin
) に保存されていても支障はありません.