高専で磨いた“自分ならでは武器”

A・Hさん

味の素冷凍食品株式会社

A・H

経 歴

2005年 長岡高専 物質工学科 卒業
2007年 長岡高専 専攻科 物質工学専攻 修了
2009年 東北大学大学院 生命科学研究科 修士修了
2009年 味の素冷凍食品株式会社 入社
研究開発センター開発グループ配属
2013年 味の素冷凍食品四国工場 開発導入グループ
2021年 同上          製造管理グループ

社会に出てみて分かった「先生の言葉」

──高専に進もうと思ったきっかけは?

 父も叔父もエンジニアなのですが、叔父は長岡高専OBだったので、高専の存在は幼い頃から知っていました。私が子どもの頃は、ちょうどバイオテクノロジーが脚光を浴び始めた時代で、私自身も研究者に憧れて小学校の卒業文集には「バイオテクノロジーの研究者になりたい」と書いていました。理科の実験も好きだったので、実験がたくさんできて、研究に早くから触れられる場所を探す中で、長岡高専を選びました。

──いざ高専に入ってみて、どうでしたか。

 まずは、「やっぱり理系の授業が多いな」と思いました。理系科目に関しては、力の入れ方が全然違った印象があります。数学などの基礎科目については高校3年分の授業内容を低学年のうちに終わらせて、早い段階から大学で学ぶような専門性の高い授業が始まりました。日々の勉強の面では、とにかく実験・実習とそのレポートが多かったです。

──学業以外でも充実した時間を過ごせましたか。

 課外活動では、硬式テニス部に所属していました。高専は1年生から5年生まで、希望すれば誰でも部活動に参加することができます。硬式テニス部は、私がいた頃は、大体30名ほど部員がいて、女子も常に5~6人はいたので、女子部の部長も務めていました。

 高専は基本的には1学科1クラスなので、部活の場で学年や学科の違う人と接点が持てたのは良かったです。例えば、機械工学科の同期から「いまこんな設備のこんな部品を作っている」といった話を聞いたりしましたね。週末にはOBの方も練習に参加してくださって、幅広い世代の人たちと交流できました。日常生活の中で、部活が息抜きになったり、過去問や進路に関する情報交換もできたりと、いい刺激になっていたように思います。

──他にも印象に残っていることはありますか。

 先生の言葉で、一つすごく印象に残っていることがあります。私は本科5年間の後に、専攻科にも進学したのですが、物質工学科の鈴木秋弘先生が「本科と専攻科では、あえて違う分野を選ぶといい」と助言してくだったのです。ただ、その当時は、その意味をすぐには理解できませんでした。

 物質工学科では本科4年生の時に材料コース・生物コースのいずれかを選択するのですが、当時はまだバイオテクノロジーの分野で研究者になることを目指していたので、本科も専攻科も、生物系の研究室を選びました。

 その後、社会人になってから「100人いたら1番になれるくらい専門性を究める、それを3つの分野においてできれば、100万人に1人の人財になれる」という言葉を耳にしました。この言葉を聞いた時に、鈴木先生の言葉を思い出して「なるほど、そういうことだったのか」とすごく繋がりまして。社会人経験を重ねる中で、よりその意味を理解できるようになりました。

高専での経験から「ものづくり」の道へ

──専攻科に進学して感じたメリットはどのような点ですか。

 専攻科に進学したことで、本科4年生の後半から専攻科の2年生まで、約4年弱のまとまった時間をかけて研究に専念することができました。もともと大学院の博士課程まで進学することも考えていたので、大学院入試に向けて勉強をする時間をしっかり取ることができたことも良かったです。ただ、高専では基本的に学生の自主性に任せられるので、目的意識を持って過ごさないとあっという間に時が流れていってしまいます。そこは気を引き締める必要があると思います。

──その後、メーカーに就職する道に転向されたのは、なぜですか。

 大学院に進学後、このまま学術研究者を目指していくのか、就職するのか、改めて進路を見つめ直すことになりました。学術研究は未来を創る仕事ではありますが、実際に世の中の役に立つ形になるまでには時間がかかります。大学で、自らの知的好奇心をモチベーションに研究に没頭する研究者たちの姿を見て、自分も同じようにずっと続けられるのかと、博士課程への進学を迷いました。

 そう考えたときに、高専で工業的な応用について学んできたこともあり、「ずっと続けるなら、もっと直接的に多くの人の役に立つようなものづくりがしたい」と思うに至りました。高専に在学中に地元の食品メーカーで企業実習を行う機会があり、それが自分の原体験になっていたのだと思います。実際に食品メーカー勤務となり、とても自分の肌に合った仕事ができていると感じています。

──入社後は、どのようなお仕事を担当されてきましたか。

 最初に配属された研究開発センターでは、開発グループにて餃子類や、中国・タイにある工場で製造するシューマイや唐揚げなどの開発を担当しました。その後、工場に異動し、同じく開発グループで餃子類の開発を担当したのち、現在は製造管理グループで生産計画や原価管理など工場運営に携わる仕事をしています。

タイ工場で現地社員と(水色の服がご本人)

「幅広い知識」という武器を磨いて

──今、振り返って「高専生でよかったなぁ」と思うことはありますか。

 先ほどの先生の言葉にも通じますが、生物だけでなく、化学の基礎も身に付けておいたことは今の強みになっていると感じています。冷凍食品の開発では、化学の知識を必要とすることがとても多いんです。例えば、冷凍食品は、焼きたてや揚げたてのものを急速冷凍することで美味しさを閉じ込めるのですが、時間が経つと、どうしても水分の移行が起きてシナっとなりやすい。それを防ぐ工夫をするには、化学の視点が求められます。

 長岡高専では生物コースの人でも、コース選択前も含めて、物理化学、有機・無機化学、高分子化学に化学工学……と化学の基礎を一通り、履修します。当時の成績証明書を引っ張り出してみたら、本当に高専って幅広く理系の勉強をしているんですよ。一見、分野の異なるシステム情報工学や、プログラミング演習なども履修項目に含まれていました。社会人になると、業務に関する資格取得を目指すこともありますが、そういった時も基礎が身に付いていて、既視感があるだけでも、心理的なハードルが低く済むと思います。

 また、製品開発では限られた時間の中で、よりよいものづくりを行うことが求められますが、高専・専攻科・大学院とそれぞれで鍛えられた「研究をとことん突き詰めて、結果を出すまで粘り強く取り組む姿勢」はどんな分野にも通じるものだと思います。

──最後に、学生の皆さんにメッセージをお願いします。

 企業に入って14年近く経ちましたが、この間も企業を取り巻く環境は変わってきています。変化の激しい時代だからこそ、自分ならではの武器を一つでも多く磨いて、複数のタグを持つのが重要と感じています。浅く広くではなく“深く広く”やるという意識が早い段階から持てるかどうかで、その後の伸び方が変わるはずです。

 高専は、多種多様な卒業生とのつながりが深いのも大きなメリットです。自分の強みが分からない、何から手をつければ良いかわからないという人は、まず、高専に縁のある人たちから刺激を受けて、とにかく、いろんなことを一生懸命やってみるのがいいんじゃないかと思います。その中で「これだ!」と思えるものを一つずつ、ぜひ磨いていってください。

【取材・文】堀川 晃菜(長岡高専2007年卒)

to_top