「自主性と協調性」─仲間と共に自分を磨く

遣水(やりみず) 麻由美さん

株式会社トクサイ

遣水(やりみず) 麻由美

経 歴

2008年 長岡高専 物質工学科 卒業
同 年  株式会社トクサイ 入社 技術課所属
2022年 組織変更に伴い、技術品質保証部に所属

友人に恵まれ、楽しかった5年間

──進学先として、長岡高専を選んだ決め手は?

 きっかけは、受験勉強を始めた頃に、知り合いに勉強を教えてもらう機会があり、その人が高専出身者だったことです。父も理系で、私も数学が得意だったので、進学先として視野に入るようになりました。他の学校より試験の日程が早いので、まずは腕試しで受けてみようという気持ちもありました。

 学科は、女子学生が多い学科(クラス)がよかったので、物質工学科を第一志望、環境都市工学科を第二志望で出願しました。物質工学科を選んだのは、白衣で実験する姿への憧れもありましたし、ちょうどその頃、田中耕一さんのノーベル化学賞の受賞が話題となり、その影響も受けていたと思います。

※田中耕一氏:タンパク質など生体高分子を調べる技術として、質量分析のための「ソフトレーザー脱離イオン化法」を開発し、2002年にノーベル化学賞を受賞。

──遣水さんのクラスでは、女子学生はどのくらいの割合でしたか。

 クラスの約半分が女子で、共学と変わらない雰囲気でした。たしかに、全学科で見ると男子の方が多いですが、だからこそ、他学科の女子とも、すぐ顔なじみになり、学科を越えて仲良くしていました。高専で出会った友人とは、今も頻繁に連絡を取り合っていて、専攻や卒業後の進路は別々でも、一生の友達が得られたと思っています。

──やっぱり友人の存在は大きかったですか?

 そうですね。授業や課題は大変でしたが、楽しい高専生活だったと思えるのは、男女問わず、周囲の人たちに恵まれたからだと思います。私は“追試組”になることもあり(笑)、勉強面では苦労もしましたが、友達に助けられて、卒業することができました!

──通学やアルバイトなど、日常生活はどのように過ごしていましたか。

 自宅は長岡市内なのですが、バスで通うと乗り換えが必要になるので、自転車で1時間かけて通学していました。学校に続く坂道で、脚力を鍛えられましたね(笑)。

 アルバイトは2年生頃から、卒業するまで、スーパーで働いていました。2004年の新潟県中越地震の時もバイト中で、お店の中が大変なことになって……。翌日、気になって見に行くと、物資支援としてテントでの店頭販売が行われていて、私も参加しました。

 地震で高専の建物も被害を受け、しばらくは学校に通えない時期もありました。学校が再開してからも、プレハブ小屋で学生実験をするなど、大変な状況でしたが、なんとか、みんなで乗り越えていった記憶があります。

仕事にも欠かせないチームワーク

──高専で得た学びとして、今につながっていると思うことは?

 学生実験の中で、チームワークを身につけられたことです。学生実験は、名簿順で決められた班で、いつも同じメンバーで行っていました。普段はあまり関わる機会が少ないクラスメートとも一緒になりますが、協力して課題に取り組んでいました。

 友人だけで集まるのではなく、与えられたミッションに対し、指定されたメンバーで取り組むというのは、会社の環境に近いかもしれません。相手との関係性を築くところから始まり、自分とは全然違う考え方もあることも知りました。班のメンバーとは、同じ実験結果を共有することになるので、どうやってレポートをまとめようかと相談する中で、だんだんと団結力も高まっていきましたね。これは、すごく良い経験になったと思います。

 実験をした後は、常にレポートの期限に追われていましたが、レポートを書くこと自体は苦じゃなかったです。「まとめ方」を身に付けたことは、仕事でもすごく役に立っています。締め切りまでに成果物を出すことに慣れておけたことも良かったですね。

──現在はどのような会社でお仕事をされているのですか。

 弊社では、主にタングステンやモリブデンといった金属を特殊な極細のワイヤーになるように加工しています。最小で2.5ミクロン(0.0025ミリ)という、人間の目では直接見えないほど細い極細線です。創業当時は、主に電球のフィラメントとしての需要があったのですが、最近では、コピー機に使われているチャージワイヤー、太陽光発電のパネル印刷に必要なスクリーンメッシュ、半導体の検査に用いられるプローブピンなどの用途で使われています。

極細線の製品例(提供:株式会社トクサイ)画像の無断転載はご遠慮ください

──ということは、髪の毛の太さの約30分の1……! ものすごくミクロな世界ですね。

 そうなんです。この仕事をしてから、シャープペンシルの芯が太く見えるようになりました(笑)。私は、入社以来、技術課に所属し、新規品の試作や、製造工程の中で異常が見つかった時の原因究明といった生産技術に携わってきました。その後、技術品質保証部に統合されたことで、顧客対応にもあたるようになり、業務の幅が広がりました。

※日本人女性の髪の太さは平均約0.08ミリ(花王株式会社 ヘアケアサイトより)

──高専で勉強したことも役立っていますか。

 直接的ではないかもしれませんが、材料化学の基礎として周期表に見慣れておいて良かったと思います。例えば、ワイヤーの表面に異物が付いていないか調べるために、簡易分析をして、何の成分が検出されたのか、元素レベルで確認しているので、周期表が頭に入っているとスムーズです。

「待っているだけじゃ、ダメ」

──他にも高専の卒業生はいらっしゃいますか。

 私が所属する部署では、13名中8名が長岡高専の出身なので、先輩とも、後輩とも「この先生の授業、受けた?」と共通の話題で、すぐに打ち解けることができました。所属している部署で、女性で高専の卒業生は、私が初めてでしたが、その後、同じく物質工学科から2人の女性が入社しています。

──遣水さんの場合は、どのように就職活動を進めましたか。

 5年生に進級した直後は、まだ大学に編入学しようと思っていたのですが、将来的に地元を離れるつもりがなかったので、高専に送られてくる求人情報の中で、長岡市にある会社はチェックしました。その中で、たまたま弊社の情報を見つけました。さっそく工場を見学できることになり、最初は軽い気持ちで行ってみたんです。そうしたら、丁寧に説明をしてもらえて、職場の雰囲気もすごく良かったので、縁を感じて就職を決めました。

──工場見学は、集団で行われた時に参加したのですか?

 いえ、個人的に会社に連絡を入れて、一人で見学させてもらいました。毎年、就職支援を担当する先生もいますが、高専では基本的に、自分で考えて、自分で動くことが求められるので、5年生にもなると、すっかりそのスタイルが浸透していたのか、特に意識せずに自分で動いていました。

──学生の皆さんにメッセージをお願いします。

 長岡高専はとても自由な校風で、学生一人一人の自主性を尊重してくれます。それは、誰かが引っ張ってくれるのを待つのではなくて、自分から動かないと何も始まらないということでもあります。私も責任感や忍耐力は高専で磨かれましたし、それを早い段階で身に付けられるのが高専に進学するメリット、高専生の強みだと思います。

 それから、もし女子中学生で男子が多いことに不安を感じている人がいたら「きっと大丈夫だよ」と伝えたいですね。高専に進学する女子学生も増えているようですし、他学科・他学年と交流するチャンスもたくさんあると思います。ぜひ勇気を出して一歩踏み出してみてください。

【取材・文】堀川 晃菜(長岡高専2007年卒)

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