“面白い”を究めて自分を尖らせよう!

倉品 英行さん

有限会社 倉品鐵工

倉品 英行

経 歴

2002年 長岡高専 機械工学科 卒業
2004年 長岡高専 電子機械システム工学専攻 卒業
2006年 長岡技術科学大学 大学院 機械創造工学専攻 修了
同 年 株式会社 牧野フライス製作所 入社
2011年 有限会社 倉品鐵工 入社
2014年 同社 専務取締役に就任

「理論と実践」両面で鍛えられる

──高専を志望した理由を教えてください。

 実家が鉄工所を営んでいることもあり、ものづくりに携わる大人の背中を見て育ちました。入学を志望する時点で家業を継ぐと決めていたわけではありませんが、人の手では作れないものを機械で形にする製造業に魅力を感じていました。

 高専が進学先として視野に入ったのは、父から「しっかり勉強したいなら、高専に通ってみてはどうか」と言われたのがきっかけです。そこで、オープンキャンパスにも足を運び、メカトロニクス(機械工学、電気工学、電子工学、情報工学の融合分野)の体験講座に参加しました。「百聞は一見にしかず」と言うように、実際に学内の雰囲気も感じられて、実験設備などにワクワクした記憶があります。

──高専生活では、どんなことが印象に残っていますか。

 実験・実習の時間は楽しかったですね。新しい技術にも触れられますが、古典的な技能もちゃんとやるんです。私の時は、ボール盤という工作機械を使って金属板に穴を開けたり、手仕上げをしたりする実習がありました。鋳造の実習があった時は、家で父と「俺の頃は鍛造の実習もあったが、お前のところはなかっただろう」なんて話もしましたね。

 最近はマニュアルで動かす機械も減っていますが、デジタル化・自動化の時代だからこそ昔ながらのやり方を知っておくことで、本質が理解できるのだと思います。なので、高専の実習でたくさん手を動かせたことは良かったですね。

──実習で「手を動かす」一方、「頭を使った!」という経験もありましたか。

 卒業研究では、紙と鉛筆で数式をひたすら解いていました。材料力学に関するテーマで理論解析を行っていました。例えば、金属材料の中でも、チタンは「伸び」という機械的な性質が3次元のXYZ方向でそれぞれ違います。それが強度などにも影響してくるので、計算で金属の性質を予測できるようにしようというものでした。

──卒業研究を通じて、どんな学びがありましたか。

 「なんとなくでは通用しない」ということを実感しました。実験系の場合は「この条件ではうまくいきませんでした」という結果も、一つのデータとして認められるかもしれません。でも理論計算だと、そうはいかないんです。計算の過程を先生に見てもらいながら、一つ一つ着実にステップを踏んで、論理が飛躍してしまっている部分があれば、さらに細分化して間を埋めていく、という作業をひたすら繰り返していました。「よし、できた!」と思って学会で発表しても、詰めが甘い部分を指摘されて……と、学内外で鍛えてもらいましたね。本科5年生から専攻科2年生までの3年間、一貫して同じ研究テーマに取り組んで、こんな経験が早いうちにできるのも、高専ならではだと思います。

社会で求められるのは「組み合わせる力」

──大学院を経て、就職された会社では、どのようなお仕事に就きましたか。

 最初に就職したのは機械メーカーで、5年間在籍していました。私が担当したのは、技術営業です。工作機械の導入を検討してくれている顧客からサンプルを預かり、自社の設備機で顧客が求める品質や、部品1つあたりの製作時間をクリアできるかテストしたり、機械の操作やプログラムの仕方をレクチャーしたりする仕事です。展示会では国内外のいろいろなお客様と直接やりとりしました。技術的な知識はもちろん、コミュニケーション能力も必要な仕事でした。

──貴社では、現在どういった製品を手掛けていますか。

 弊社では工作機械・産業機械の各種部品を加工しています。主に、鉄道や航空関連の工作機械の部品を扱っています。鉄道関係では車輪を修理する機械の部品など、航空関連では、飛行機のエンジンメーカーや宇宙産業で使われる部品を手掛けています。どれも高精度な加工が求められるもので、ときには我々の加工費より、材料費の方が高いような特殊な素材を扱うこともあります。プレッシャーも大きいですが、その分、技術力で勝負していることに誇りも感じられます。

左:会社代表である父の倉品明彦さんと。右:後輩社員の仕事風景

──今までのお仕事の中で「高専出身で良かった」と思うことは?

 一番実感するのは、報告書の作成スキルですね。これまで数えきれないほど、報告書を書いてきましたが、やり直しを指示されたことは、ほとんどありません。高専で15歳から鍛えられましたから(笑)。文書の体裁が違っても、基本的なスキルはどこでも通用すると思います。

 プログラミングの知識も役立っています。旋盤やフライス盤など、加工機械はたくさんありますが、今は9割方がコンピューターで制御されています。機械に指示して動かすための方法がプログラミングなので、やはり基礎知識があると有利だと思います。

 ただ、これさえやっておけばいいというわけではなく、総合力が求められます。学生のうちは、たくさんの講義を受けなければならなくて、何のために勉強しているのか分からなくなる時もあるかもしれません。でも、社会に出て役に立つのは、教科別の個々の知識ではなく、その組み合わせ。私たちの仕事においても、加工だけができてもダメで、材料の良し悪しも判断しなければなりませんし、材料の熱処理や、メッキなどの表面処理、歪みや変形といったことも考慮する必要があります。機械工作や設計開発には、たくさんの知識が複合されています。

 知識をつなぎ合わせて、自分の仕事に生かしていくことが大切で、学生の皆さんには、「これだけは!」と思えるオンリーワンの強みを軸に自分の幅を広げてもらいたいですね。

“面白い”を究めて、尖らせよう!

──まだ得意なことが分からない、自分の武器が見つからない人もいるかもしれません。

 高専生、または高専への進学を考えている人には、理科や数学が好きな人が多いと思います。「わりと得意だな」とか「面白いな」と思えることが、誰にでもあるはずなんです。仕事でも何でもそうですが、やっぱり好きじゃなきゃ、長続きしません。何かしら好きなもの、面白いと思えるものを見つけて、まず本気で取り組んでみる。得意・不得意は後からついてくると思います。

──学生の皆さんに、どんなことを大切にしてほしいですか。

 今思えば、「変わっていてもいいんだ」って思えるのは、高専にいたからかもしれません。高専にいるうちは、濃いキャラクターの人たちに囲まれて、自分は普通だと思っているかもしれませんが、一歩外に出ると、人と違うことが強みにもなると感じられるはず。「一般的」とか「平均的」な人物になろうとするのではなく、変わっていてもいいし、尖っていたっていい。そういう肯定感は、高専にいる方が持ちやすいのではないでしょうか。皆さんにも、恥ずかしがらずに、自分の個性をどんどん伸ばして、尖らせていってもらえたらと思います。いずれ就職すれば、工業系は専門分野が近い人たちに囲まれやすいので、その中でも自分を光らせることができると思います。

 何より、人との縁を大事にしてほしいですね。私も転職を経験しましたが、以前の職場を退職するときに、当時の上司から「実家の鉄工所に移るなら、うちの部品も作ってみないか」というお話をいただき、今でも取引先としてのお付き合いが続いています。人も、仕事も、どこでつながるかわかりません。縁は大事にしていただきたいです。

【取材・文】堀川 晃菜(長岡高専2007年卒)

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