高専で技術者としての「総合力」を磨く

岡 武士さん

上越工業株式会社 取締役工場長

岡 武士

経 歴

1999年 長岡高専 機械工学科 卒業
同 年 上越工業株式会社 入社 生産技術課配属
同課係長、課長などを経て2017年より取締役工場長

父の影響から機械工学の道へ

──高専を知ったきっかけ、機械工学科を志望した理由を教えてください。

 私の父は三条市の金型屋に勤めていて、プラスチック金型の加工をする職人でした。休日はよく工場に連れていってもらったので、小さい頃から、工場や機械に親しみがありました。「機動戦士ガンダム」などのロボットアニメや、プラモデルを作るのも好きでしたね。

 高専を知ったきっかけは、NHKの高専ロボコンだったと思います。親と一緒にテレビで見ていたのですが、もしかすると、意図的に私に見せていたのかもしれません。ロボットや、その制御に興味を持ったのですが、父からは「そもそも機械を制御するためには、機械のことを知っておいた方がいい。機械について理解した上で、後から制御を学んでは」と助言され、機械工学科を第一志望にしました。

 元々、電子制御工学科は機械工学科から派生した学科なので、機械工学科のカリキュラムの中でプログラミングや制御の基本的な知識を学ぶことができました。

──高専生活で特に印象に残っていることは何ですか。

 授業では、機械工場での実習が面白かったですね。金属を回転させながら削り出す旋盤という工作機械を動かしたり、アルミの鋳造をしたりしました。溶接のやり方や、工作機械の扱いなど、機械工学の基礎を身に付けられたことは、就職後にも大いに役立っています。溶接は会社に入ってから免許(アーク溶接業務特別教育、ガス溶接技能講習)を取りました。もちろん、その会社の専門的な技術や、特殊な装置の使い方などは入社後に習得するものですが、触ったことのないような機械でも、高専で一通り、基本的な工作機械の扱いに慣れておけば、ある程度、勘が働きます。基礎を身につけておけば、専門的な知識や技術を習得するのもスムーズだと思いますね。

 生活面では1〜3年の時は寮に入っていたので、同じ部屋の人や上級生との関わりの中で、人づきあいの仕方を学びました。厳しいこともありましたが、今となれば、いい思い出です(笑)。15歳の時に20歳の人たちの考え方に触れて、刺激を得られたことも良かったですね。

高専は“自分で選べる”学校

──寮生活で楽しかった思い出は、どんなことですか。

 「寮祭」というイベントがあるのですが、3年生の時にその実行委員になりました。その時の仲間が、新しいことを積極的に提案するメンバーだったので、一緒に創り上げていく感覚が楽しかったですね。ただ、寮は基本的に自分たちで運営するので、学年が上がるにつれ、どうしても役員の仕事も増えていきます。私は、自分のやりたいことにかける時間をもっと確保したくなったので、4年生からは自宅からの通学に切り替えました。

 ちなみに、私を含め、同じ中学校から7人が高専に進学しました(うち1名は高校から高専4年次に編入学)。地元は比較的、高専に近い地域だったので、私以外は通学生でした。寮に入るのか、通学か、一人暮らしをするのか、部活動や学生会の活動に参加するかどうかも含め、基本的には時間の使い方を自分で決められることも“高専生ならでは”と言えるのかもしれません。自由度が高い分、責任も自分で持つことになるので、早くから自立することにつながりますね。

──ちなみに、在学中にやりたかったこととは?

 ホノルルマラソンに出たかったんです。元々、高専に入る前から陸上で中長距離を走っていて、高専でも陸上部に入り、活動を続けていました。膝の怪我で2年生の時に辞めたのですが、やっぱり「マラソンを走りたい」という思いが募り、高専の在学中にホノルルマラソンに出ることを目指して、自主練を続けていました。残念ながら、4年生の時に自転車で転んで、骨折してしまい、その夢は叶いませんでしたが、現在も走ることを続けています。

今も大切にしている「高専とのつながり」

──4年生になると研究室に配属されますが、どのような研究テーマに取り組みましたか。

 精密工学研究室で、プラスチック樹脂のシボ面の官能検査を行いました。「シボ」というのは、表面加工を施す際につける細かな凹凸模様のことで、例えば、自動車のダッシュボードや内装に使われています。これが加工の仕方によって、柔らく見えるのか、硬く見えるのか、人間の感じ方を数値化する性能評価の一種です。それを行うために、研究室に遊びにきた同級生を捕まえては被験者になってもらっていました。

指導教官だった山田隆一先生を囲んで。一番左が岡さん

──機械工学科には、機械の製作だけでなく、さまざまな分野があるのですね。その中で就職先はどのように決めたのですか。

 弊社の前工場長で社長だった方が、私がいた研究室の先生と同級生だったんです。「高専卒の学生が欲しい」という話があり、先生から紹介してもらったのが、きっかけです。弊社は鍛造品を生産していて、例えば、ディーゼルエンジンのコネクティングロッドという部品など、高い強度が必要となる金属製品を多く手掛けています。

 会社には、私を含め、現在8人の高専卒業生がいます(機械工学科卒が6名、電気電子システム工学科卒が2名、学科名は現在の名称)。新しい学生を受けいれる際も、やはり卒業生がいる会社ということで、安心してもらえるようですね。

職場での様子。右が岡さん

──会社と高専とのパイプも太いんですね。

 高専とは現在、共同研究も進めています。地域共同テクノセンターに、業務に関する技術的な困り事を相談した時に、金子健正先生が応じてくださり、そこから共同研究に発展しました。恩師の先生を介した個人的なつながりも、組織と組織のつながりも、両方ありがたいですね。

──改めて、ご自身の経験や他の高専出身者の姿から感じる「高専生の強み」とは。

 なんといっても、精神的な強さじゃないでしょうか。中学校を出てすぐに、大人として扱われる環境に飛び込んで、5年間を過ごせば、そりゃタフになりますよね。

 社会人になって、まず役立ったと思うのはIT技術の基本的なスキルを身に付けていたことです。私が高専を卒業する前に、情報処理センターのパソコンのOSが当時では新しいWindows95に変わっていたので、就職後もすぐにパソコン業務に対応することができました。高専はそういった設備面でも新しいものに触れられる機会が多いと思うので、積極的に使うと良いと思います。より本格的な業務に携わるようになってからは、産業用ロボットの操作や動作プログラムの作成を担当した際に、高専の授業で習っていたプログラミングの知識が非常に役に立ちました。

──今、工場長というお立場で「技術者」に求められることは何だと思いますか。

 専門性はもちろんですが「総合力」が強く求められます。自分の得意とする専門性を磨く一方で、周辺領域についても理解が及ばないと、せっかくの専門性も十分に発揮できないからです。例えば、金型だけ、設備だけ、材料や生産管理だけではなく、幅広い視野で物事を捉えて、新しい知識や技術を柔軟に取り入れていく姿勢も「総合力」の一つだと思っています。私も、生産技術課に配属されてから、設備保全、金型設計、金型の整備、生産管理、品質保証とさまざまな業務を経験して、だんだんと全体を見渡せるようになりました。ぜひ、今、高専で学んでいる人たちには、自分の学科のことはもちろん、他の分野にも興味を持って、自分の幅を広げてもらえたらと思います。

【取材・文】堀川 晃菜(長岡高専2007年卒)

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