“好き”を貫けば、道は開ける

金子 健正さん

長岡高専 機械工学科 准教授

金子 健正

経 歴

2005年 長岡高専 機械工学科 卒業
2007年 長岡高専 専攻科 電子機械システム工学専攻 修了
2009年 長岡技術科学大学 修士課程 機械創造工学専攻 修了
2009年 株式会社ソディック 入社
2013年 長岡技術科学大学 博士後期課程 材料工学専攻 修了、博士(工学)
2013年 豊田工業大学 ポストドクトラル研究員
2014年 長岡高専 機械工学科 助教、2017年より准教授
2022年 三条市立大学 非常勤講師
詳しくはこちら:https://www.nagaoka-ct.ac.jp/me/staff/kaneko-kensei/

プラモデルをきっかけに機械工学へ

──なぜ進学先として、長岡高専の機械工学科を選ばれたのですか。

 私はミニ四駆世代で、プラモデルなどのホビー製品で知られる模型メーカーに、子どもの頃から憧れていました。私は新潟市の出身ですが、その会社がある静岡市まで足を運び、会社の工場見学もさせてもらいました。その時に「こうやってプラモデルが作られているんだ」と体感したことがきっかけで、機械工学を志すようになりました。

 中学生の時には、すでに将来、製造業に就きたいと思っていたので、工業系の学校を検討する中で、より高いレベルで学べる学校ということで、長岡高専にチャレンジしました。両親は文系で、通っていた中学校の先輩にも、近い世代で高専に進学した人はいなかったので、学校説明会やオープンキャンパスに参加して、情報を集めました。同じ中学校出身で、電子制御工学科に進学した同級生とも、よく情報交換をしていましたね。

──実際に入ってみていかがでしたか。戸惑いはありませんでしたか?

 共通の話題で盛り上がれる友人が増えたことは嬉しかったですね。やはり機械工学科には、工作や機械いじりが好きな人が多いように思います。

 授業では、いきなり専門的な内容が始まるのかと構えていたのですが、低学年のうちは基礎をしっかり固める授業が多かったです。数学には苦労した覚えがあります。でも、そこまでイメージと違って戸惑うことはなかったですね。1年生の頃から少しずつ、学年が上がるにつれて、専門科目の講義や、実験や実習も増えていきました。

──特に印象に残っている実験・実習はありますか。

 今は行われていないのですが、私が在学していた頃は、金属の鋳造をする実習があり、砂で型を作って、熱で溶かしたアルミニウムを流し込んだのは、よく覚えています。溶接は現在も行われていますが、やはり手を動かしながら学んだことは、忘れないですね。

究めるほど面白い! 研究の世界

──卒業後の進路については、どのように考えていましたか。

 模型メーカーへの憧れもありましたので、就職活動をするつもりでいました。でも、4年生の後半から研究室に所属し、プレ卒(卒業研究の前段階)が始まると、だんだん研究が面白くなってきて「もう少し続けたい」と思うようになりました。なので、そのまま専攻科に進学することにしました。

 そして、専攻科を卒業すれば、学士号を取得して、大学の学部卒と同等になるため、そのタイミングで就職しようと思っていました。ところが、私の研究テーマと同じ分野の先生が長岡技術科学大学(技大)にいらっしゃると知りまして。「せっかくだし、もうちょっと研究したいな」と思って、技大の大学院に進学しました。

 修士課程を修了後は、工作機械メーカーに就職したのですが、やっぱり研究への未練が断ち切れなくて。当時は就職活動の時期が早く、修士1年生の夏頃から始まり、2年生になる前には内定が出ていました。でも、その後も修士論文に向けて研究を続ける中で「やっぱり研究を続けたい」という思いが、ずっと心の奥にあったのです。

大学院でお世話になっていた指導教官の定年が近づいていたこともあり、「先生の下で研究をするなら今しかない!」と、会社を辞めて再び大学に戻り、博士課程に入りました。そして「博士号を取得し、この先どうしようかな」と考えていた時に、高専の卒業研究の指導教官だった恩師から「高専の教員にならないか 」と声をかけてもらいました。

──そこまで先生を魅了する研究とは、どんなテーマなのでしょうか。

 「放電加工」と言って、工作物と電極との間に人工的に放電現象を起こして、放電の熱で工作物を少しずつ溶かす加工方法です。研究対象としてきた工作物の材料は、マグネシウムなどの金属材料だったり、セラミックスといった無機物だったりと、さまざまですが、放電加工という点では一貫しています。

放電加工機の外観(左)と加工している部分(右)。下は放電加工の模式図。
放電現象により電流が流れ込んだ点に温度3,000度以上のアーク柱ができ、金属が溶ける。その際に加工液(油)も気化して爆発現象が起き、その勢いで溶けた金属が吹き飛び、加工のくぼみができる。

──もしや、これもプラモデルと何か関係が……?

 そうなんです。実は、これも静岡の模型メーカーで実際に見せてもらっていたのですが、プラモデルの材料である樹脂(プラスチック)を溶かして、型に流し込んで成形する工程があります。この時に使う金型が、放電加工で作られているんです。それで、高専で研究室の配属を決めるときに、放電加工を研究している先生の部屋を選びました。

──放電加工は、製造の現場でも使われている手法なのですね。

特殊加工と呼ばれるもので、実際に工業的に使われるようになったのは、比較的最近です。現場の方からも「工作機械の画面の指示通りにやれば加工できるけど、何が起こっているのかわからない」という声を度々耳にします。非常に短時間で起こる現象ですが、材料の電気的な性質が関係していたり、高温で溶かすため、熱や流体の話も関係していたり、複雑な現象です。実験結果の考察も一筋縄でいかないことが多く、謎があるからこそ、面白いと思っています。

企業で実証試験を行った時の様子

自ら動くほどチャンスは広がる

──教員としてご自身が研究室を構える立場となり、大切にしていることは?

 研究を通じて、学生が社会と接する機会をなるべく設けたいと思っています。例えば、研究室に所属している学生とは、共同研究先の企業や大学を訪ねたり、学会にも積極的に参加したりしています。自分が取り組んでいることに対して、外部からコメントをもらうことで、刺激を受けたり、視野を広げたりしてほしいと考えています。

 進路相談では、例えば「設計・加工を専門的に学びたい」という学生に、県内だけでなく北陸地域の中でその分野に強い大学を紹介したこともあります。私自身、学生の頃に「もっとこうしておけばよかった」という反省もあるので、自分自身の経験も踏まえて、提案するように心がけています。

研究室の専攻科学生と。学生が着用しているのは機械工学科の作業着
研究室の学生を連れて工場見学に訪れた時の様子

──金子先生が「やっておけば良かったと思うこと」とは?

 自分が好きな勉強ができたこともあって、あまり課外活動はやっていなかったんですよ。そうしたら、就職活動の自己PRをする時にエピソードが浮かばず、困りまして(笑)。

 最近、長岡高専では、さまざまな教育カリキュラムやイベントを用意しています。学生が自分で手を挙げれば、いろいろな経験ができる環境があります。学生一人一人のやりたいことに合わせて、選択できる幅も広がっています

 例えば、2014年に開設された「システムデザイン教育プログラム」は、本科4年生から専攻科生が対象で、他学科・他学年の人と一緒のグループで、地域の課題解決を目指します。本科4~5年生は「ベーシックコース」、専攻科まで4年間続けると「エキスパートコース」となり、卒業証書とは別に認定書がもらえます。本科ではアイデアを出して具現化してゆき、専攻科生ではプロジェクト全体をマネジメントする力も養うことができます。

──進学を検討している中学生、在学中の高専生にメッセージをお願いします。

高専は15歳から20歳の人間形成の大切な時期に、さまざまな経験ができる場所です。男女問わず、どんな学生にもチャンスの多い学校づくりを目指しています。私はダイバーシティ推進室にも携わっているのですが、本校では、女性でも工業系の進路を選びやすいように、女子学生の協力も得ながら、社会で活躍するOG技術者のキャリアモデルを紹介するなどしています。

また、2014(平成26)年度からは1学年が混合学級となり、学科を越えて「卒業後も続く友人ができた」という声も聞こえてきます。私自身もそうでしたが、人との出会い、人とのつながりで進路が決まることもあります。皆さんにもぜひ一期一会を大切にしてほしいです。

【取材・文】堀川 晃菜(長岡高専2007年卒)

to_top