高専仕込みの「技術力」で世界に羽ばたく!
菅井 直人さん
株式会社クラレ ジェネスタ事業部開発部

高分子材料のスペシャリストとして活躍する本校卒業生の菅井直人さん(所属先提供)
経 歴
2007年 長岡高専 物質工学科 卒業
2009年 東京工業大学 工学部 有機材料工学科 卒業後、同大学院の修士課程へ進学
2014年 同大学大学院博士課程修了、博士(工学)取得。同年、株式会社クラレへ入社。
技術職への憧れから高専へ
──なぜ高専に進学しようと思ったのですか?
高専を知ったのはテレビでロボコンを観たのがきっかけです。小学生の頃から「技術で世界を飛び回りたい」という夢があったので「技術を身につけるなら、ここだ!」と思いました。
──入学後は、何に打ち込みましたか。やはりロボコン?
実はロボコン部には入らなかったのです(笑)。一方で、ある先輩との出会いが転機になりました。3学年上の先輩が、卒業後にワシントン大学に進学したのです。そんな道もあるのかと衝撃を受け、視野が広がりました。また、その先輩がブログで情報発信する姿にも感化され、私も3年生から高専生活をテーマにブログを始めました。 ブログは大学以降も9年間続け、大学生になってからは化学のポータルサイト「Chem-Station」に記事を寄稿することもありました。
──高専の在学中、海外志向を強めることはできましたか?
高専主催のスピーチコンテストには毎年チャレンジしました。また、長岡市の交流プログラムに応募し、2年生の夏休みにアメリカのテキサスに行くことができました。初めての海外でした。
高専生は日ごろ実習などで忙しい面もありますが、3年生で大学受験する必要がないので比較的、時間を自由に使えます。技術力を培うのはもちろんですが、それ以外にも早いうちから興味や関心を伸ばす機会が与えられ、先生方もそれを応援してくれました。

──自由な環境で、自分を律するのは大変だったのでは。
その点は寮に入ったことが良かったと思います。主席(学科1位)だった先輩に「1日6時間勉強している」と聞き、テスト前だけでもやってみようと勉強したところ、好成績を収めることができました。さらに、いったん成績が下がると周囲から「どうしたの?」と言われるので……良くも悪くも(?)周囲のおかげで成績を維持できました。学習面以外でも、寮は学生主体で運営するので、共同生活ならではの経験から多くのことを学びました。
人生の節目に“高専の縁”
──高専卒業後の進路に影響を与えた出来事は?
先のホームステイでは、なかなか会話できずに悔しい思いをしたので、市民センターで英会話サークルの立ち上げに参加しました(同じ立ち上げメンバーには、後に高専の教員になった大湊佳宏先生も)。その時に出会ったのが20歳上の高専の先輩で、現在、長岡高専で英語指導をしている市村勝己先生です。
市村先生は長年、海外顧客向けに半導体材料の技術サポートをされていて、イギリス駐在から帰国された後に知り合いました。私が大学に進学してからも時々、連絡を取り、就職先を決めるときにも相談にのってもらいました。企業規模がより大きい会社にしようか、チャレンジできる環境を重視すべきか、迷ったのですが、背中を押してもらって後者を選びました。
ちなみに、大学時代の指導教官も長岡高専の非常勤講師をしていた先生で、いろいろな形で“高専の縁”に支えられた学生時代でした。
夢を実現! 世界を股にかけた研究開発
──就職後も高専のつながりを感じる機会はありますか?
社内には、私の他にも長岡高専の卒業生や、長岡技術科学大学を経て就職した方などもいます。胎内市にある新潟事業所でも活躍している方が多いと聞いています。やはり、同じ会社にOB・OGがいるというのは嬉しいですよね。
──現在、どのようなお仕事をされていますか?
私はスマートフォンや自動車などに使われるプラスチック材料を手がけています。海外に展開する部署なので、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなど世界各国の支社と日々メールや電話をしています。その中で、例えば「もっと強度の高い素材が欲しい」というニーズがあれば、材料のレシピや実験計画を検討し、製品提案につなげていくのが仕事です。
入社5年目にはベルギーに3か月間、派遣されました。ヨーロッパの市場を調査するため、現地スタッフと10か国ほど視察し、現場のニーズを拾い集めていきました。


──いま、グローバルな人材がますます求められています。アドバイスはありますか。
私は就職前に国際学会でドイツに行く機会があり、それに合わせてクラレのベルギー工場に見学を申し込んでいました。当時対応してくれた現地スタッフ(後の上司)に「英語も大事だけど、まずは海外に派遣してもらえるだけの能力がないとね」と言われたことが印象に残っています。実際働いてみるとその通りで、知識・技術を有するこが大前提になると思います。
いま振り返ると、高専の5年間は技術と真摯に向き合える時間でした。そして、私の場合は「技術」×「英語」が自分の基盤となりました。高専には興味をくすぐる実験・実習もたくさんあるので、ぜひ技術を身に付けながら、自分なりの武器も見つけてください。
【取材・文】堀川 晃菜(長岡高専2007年卒)