「生まれ変わっても、また高専に入学したい」

品田 惇貴さん

株式会社 植木組 舗道部生産管理課

品田 惇貴

経 歴

2007年 長岡高専 環境都市工学科 卒業
同 年 長岡技術科学大学 環境システム工学課程 編入
2009年 同上 環境システム工学課程 卒業
同 年 株式会社 植木組 舗道部生産管理課 配属
2021年 同上 兼 ICT推進担当

私が高専を選んだ2つの理由

──なぜ高専に入ろうと思ったのですか。

 中学生の時にレイチェル・カーソンの『沈黙の春』を読んだのがきっかけで、環境問題に関心があったからです。まだ当時は、環境について学ぶことが、その先のキャリアにどうつながるのか、明確な道筋が見えていたわけではありませんが、一般高校でそのようなことを学べる場所がなかなか見つからない中で、環境都市工学科のカリキュラムを見て「ここだ!」と思い、高専を選びました。

──実際に、高専でその希望は叶いましたか。

 卒業研究では、氷河の研究をされていた佐藤和秀先生(現・長岡高専名誉教授)の研究室で、雪を分析して環境への影響を考察するというテーマに取り組むことができました。妙高市と長岡市からサンプリングした雪に含まれる成分を、イオンクロマトグラフィーという装置を使って分析し、山間部と都市部でどのような違いがあるのか調べました。

 また、私も含め、高専からは長岡技術科学大学(長岡技大)に進学する学生が多いのですが、技大で、さらに環境のリモートセンシング技術や、バイオ系のアプローチなどについても学びを深めることができました。今振り返ると、高専の環境都市工学科で土木系の科目を重点的に学んでいたことは、結果的に今、建設業界に身を置く上で良かったと思います。

 知識だけでなく、学生実験や卒業研究を通じて培われたのは、仮説を立てて、どんなアプローチで立証していくのかを考える姿勢です。それは、どんな分野でも応用が効くものです。今の仕事においても、新しいプロジェクトや新しい課題に対し、闇雲に動くのではなく、ストーリを立て、見通しを持って物事を進める上で、役に立っていると感じます。

──学業以外でも、高専を選んで良かったことはありますか。

 私が高専を選んだもう一つの理由は「5年間」であることに魅力を感じたからです。高校に進学した場合、多くは受験勉強を軸に生活することになると思いますが、10代後半の人生の礎を形成する時期に、もちろん勉強も大事だけれど、他にもいろんな経験をしたいと考えていました。その点、高専は大学受験の必要がなく、春休みや夏休みなどの長期休業が大学と同程度に長いです。

 実際、私は5年間の在学中に3度、海外に行くことができました。1回目は1年生の時に、私の地元である柏崎市の活動に応募し、タイにマングローブを植林しに行きました。2回目は、3年生の時で、長岡市の姉妹都市であるアメリカ・テキサス州フォートワースに行きました。この時は、世界中のフォートワースの姉妹都市から学生が集まり、大学の寮で2~3週間ほど共同生活を送りました。プログラムでは、各国の高校生たちと環境問題についてのディスカッションも行いました。そして、3回目はこの時に出会った現地の人を訪ねて個人的に旅行しました。

米国フォートワースで世界各国の高校生と交流した時の様子

外の世界に出て、視野を広げよう

──元々、英語は得意だったのですか?

 高専生は理数系が得意な人が多いですが、私は苦手で……。その分、英語は頑張ろうと思って力を入れました。洋楽も好きだったので歌詞の意味を調べたり、「英語部」に所属して、スピーチコンテストにも挑戦したりしました。やっぱり海外の人とコミュニケーションをとりたいという気持ちが一番のモチベーションになりましたね。

──理数系が苦手となると、高専の勉強に苦労したのでは……?

 そうなんです。正直、赤点を取ってしまったこともあります(笑)。いつも同じ学科の同級生に助けてもらい、優秀な友達のノートのおかげで、なんとか卒業できました! 今でもみんなには感謝しています。

 高専では同級生に恵まれ、本当に楽しい時間を過ごしました。だからこそ、あえて違うコミュニティに入っていくことも経験しておいて良かったですね。高専は、本質的には価値観の近い人が集まりやすい学校だと思います。居心地が良い分、似たような考え方になりがちなんですね。なので、海外の人と交流したことで新しい価値観に触れることができ、視野が広がりました。「こんな考え方や、そういう可能性もあるのか」と柔軟性を養えたことが、自分のアイデンティティを豊かにしてくれたと思います。

──海外交流に挑戦したことは、今の仕事においても役立っていますか。

 実は入社13年目で、ついにそう思う瞬間が訪れました。2022年に国際会議でプレゼンをすることになったのですが、高専での経験があったから、勇気を出して挑戦することができました。

北海道で開催された国際会議でプレゼンテーションをする品田さん

環境との調和を目指したまちづくり

──お仕事ではどのような業務を担当されているのですか。

 私は道路分野における舗装工事に関する部署に所属しています。主な業務は、自社で所有する工場で製造されたアスファルト混合物(舗装工事で使用する材料)の品質管理です。最近はICT(情報通信技術)を活用して業務の効率化を図ることにも注力しています。

 今、高度経済成長期に建設された道路や橋などのインフラ施設の老朽化が問題になっています。道路のひび割れなども放置すると、どんどん劣化が進むため、点検で早期発見し、適切に処置することが重要です。その一方で、地方に行くほど人材不足は深刻で、なかなかインフラの維持・管理をカバーするのが難しくなっています。そこでIT技術を使って、人の目だけでなくセンシング技術で異常を検知したり、管理記録をデジタル化したりと、この分野で産官学の連携が進んでいます。

──今あるもの長く使うことも、環境負荷を減らすことにつながりますね。

 まさに、そういった思いを持って入社しました。建設業として、インフラの側面で人々の暮らしを支えながら、いかに地球環境との調和を図るか、日々考えています。新しいものを造るだけでなく、今あるものを補修しながら安全に長く使っていくことは環境保護の観点からも大切です。この先、人的リソースや建設投資などのコスト面が今以上に限られていく中で、長期的に計画性のある街づくりをしていくことが、ますます重要となっています。

──業務を通じて、高専との接点もありますか。

 私は「Maintenance Expert新潟」(ME新潟)という組織にも所属しているのですが、長岡高専の井林 康先生も参加されていて、何度かお会いしています。また、リクルートの一環で学校に伺ったり、技術職員として働いている同級生を訪ねたりと、今でも高専は身近な存在です。

卒業して感じる「高専のすごさ」

──改めて、高専をどのような学校だと感じますか。

 やっぱり、すごい学校なんだと思います。「高専卒」という看板の大きさは、社会に出てから実感するようになりました。県外の取引先企業の、世代が離れている人でも、別の高専出身者でも、高専卒というだけで、距離が一気に近づきます。

 高専卒でない方々から「すごいね」と言っていただけるのも、先輩たちが築いてきた実績、そして今も進化し続ける学校の存在があるからだと思います。近くで見ていても、学生を社会で通用する人材に育てようという先生方の熱意、向上心が伝わってきます。

──学生に向けてメッセージをお願いします。

 5年は長いと感じるかもしれませんが、振り返るとあっという間です。5年間の中で自分の得意なこと・好きなことを見つけて、それを追求して、時間を忘れるくらいのめり込むと、充実した価値のある時間になると思います。高専には、いろんなことに挑戦できる環境がありますし、それを支えてくれる頼もしい先生方がいます。

 高専生は遊びも勉強も、やるときはやるんですよね。仲間と一緒に笑ったり、真剣に取り組んだり、そうした時間が過ごせるのは貴重です。ここでの出会いが、その後の人生にも大きな影響を与えると思います。私はもし生まれ変わっても、また高専に入学したいですね。

【取材・文】堀川 晃菜(長岡高専2007年卒)

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