イントロダクション
「AI」と言う言葉をよく耳にしますが、どんな技術のことを指しているのでしょうか。
この授業ではみなさんがAIについて説明できるようになることを目指します。
まずはAIの歴史やAIの仕組みについて勉強していきましょう。
人工知能 (AI: artificial intelligence) の歴史
そもそも人工知能 (AI) の定義はなんでしょうか。
研究者によっても多少のズレはあると思いますが,平たく言うと,
「人間にしかできなかった知的な行為を,どのような手順とどのようなデータを準備すれば,それを機械的に実行できるか」を研究する分野
となります。
コンピュータサイエンスから数学・物理学,さらには脳科学など,非常に幅広い分野に関わる壮大な研究分野と言えるでしょう。
実際,2024年10月に発表されたノーベル物理学賞とノーベル化学賞はどちらもAIに関する研究に与えられました。
AIに関する研究がノーベル賞を受賞したのは史上初のことで,科学研究の世界においてもAIに対する期待が高まっていることが伝わります。
このように,AIというと最新技術というイメージがあるかもしれませんが,実はノーベル賞を受賞するほどの伝統的な研究分野であり,なんと60年以上の歴史を持ちます。
その過程では,世間から期待と注目を集めるブームの時期と,期待が薄れて注目されなくなった「冬の時期」とが交互に繰り返されてきました。
まずはその歴史を概観してみましょう。
第1次AIブーム(1950年代後半〜1960年代)〈推論・探索〉
第1次AIブームの中心は「推論」と「探索」,つまり特定の問題の解を見つけさせるプログラムでした。
具体的には迷路を自動で解くなどのAIが開発されていたのですが,扱えるのがこのような単純な問題に限られていて,現実社会の問題解決には使えないということがわかり,徐々にブームが去っていきました。
ただ,全てが無駄に終わったわけではありません。
この頃に ELIZA(イライザ) というカウンセラーを模した人工対話システムが開発されました。
ELIZAはユーザからの相談に対して,それが想定している内容の1つに当てはまるようであれば,それに対応する定型文を返す,というものでした。
これは現在広く使われているチャットボットなどの人工無能と呼ばれる技術の祖であると言われています。
[ブームの中心] 推論と探索。つまり迷路を解くなどの単純な問題を扱うAI
[ブームの終焉] 単純な問題しか扱えず,現実社会の問題解決には使えなかった。
第2次AIブーム(1980年代)〈知識表現・エキスパートシステム〉
第2次AIブームでは人間の知識をAIに教え込むことで,専門家と同じような判断ができるAIシステムであるエキスパートシステムが注目を集めました。
1972年に発表された細菌感染診断を行うエキスパートシステムが火付け役であり,ブーム中には様々なエキスパートシステムの開発が行われたのですが,
必要な知識を全て教え込むことは困難であり,結局は限られた範囲でしか活用できないということがわかり,またも徐々にブームが去っていきました。
一方で,現在も広く活用されているエキスパートシステムもあります。代表的なものは交通機関の乗り換え案内アプリでしょう。
あれは路線図や時刻表という「知識」をもとに適した行程を提案してくれるエキスパートシステムです。
後に出てくる機械学習に基づく生成AIとは異なり,エキスパートシステムは必ず与えられた知識の中で答えるために嘘をつくことがないので,信頼性の高いシステムが作れるというメリットがあります。
[ブームの中心] エキスパートシステム。人間の知識が教え込まれて専門家と同じような判断をするAI
[ブームの終焉] 必要な知識を全て教え込むのは現実的に困難であり,限られた場面でしか使えなかった。
第3次AIブーム(2000年代後半〜2020年頃)〈ビッグデータと機械学習〉
第3次AIブームの中心は機械学習です。
機械学習とは,判断の基準を人間が事前に教え込むのではなくデータをもとにコンピュータ自身に見出させるための技術の枠組みを言います。
エキスパートシステムの欠点が人間が事前に膨大な知識を教え込まないといけないことだったことを考えると,機械学習はその課題を解決するポテンシャルを持っていました。
実は機械学習自体は第1次AIブームの頃から理論的には考えられていたもので,革新的なアイデアだったというわけではありません。
機械学習が十分な性能を発揮するためには大量のデータを処理することが必要なので,データや処理能力が限られていた時代にはなかなか成果が発揮できずにいたのです。
それが,1990年代から2000年代のインターネットの発展により大量のデータにアクセスできるようになったことと,半導体技術の発展によってコンピュータの計算速度が向上していったことをきっかけに,一気に機械学習が実用的なレベルにまで達することができたのです。
極め付けは深層学習(ディープラーニング)の発展でした。
ディープラーニングは機械学習の手法の1つであり,判断の基準を見出すだけでなく,判断のときに注目すべきデータの特徴を考えたり抽出したりする部分もコンピュータ自身に行わせるという特徴があります。
いよいよデータを大量に与えるだけで高度な判断が行えるAIが作れるようになり,実用的なAIがどんどん生み出されていきました。
第3次AIブームはかつてないほどの大きなブームとなり,AIが身近な存在となりました。
[ブームの中心] 機械学習。データをもとにコンピュータ自身が判断の基準を見出すAI。
[ブームの要因(1)] インターネットの普及によって大量のデータにアクセスできるようになった。
[ブームの要因(2)] 半導体技術の発展によってコンピュータの計算速度が向上していった。
第4次AIブーム(2022年頃〜)〈生成AI〉
第3次AIブームが落ち着く間も無く,突如として始まったのが第4次AIブームでした。
第4次AIブームの火付け役はChatGPTです。
これはチャット形式の言語生成AIであり,あたかも人間とチャットしているかのような自然な文章を返してくるサービスでした。
ChatGPTは公開からわずか5日でユーザ数が100万人を突破しました。これはInstagramの15倍の早さです。
ChatGPTの普及とともに生成AIと呼ばれるAIがどんどん発展していきます。
文章だけでなく,画像や音声,動画を生成するAIが次々と開発されています。
それに伴い,過去の産業革命のときのように人々の働き方や法律などにも大きな変化が求められるようになりました。
まさに生成AI革命と呼ばれる時代と言えるでしょう。
このように急速に社会に影響を与えている生成AIですが,注意すべきこともあります。代表的なところとしては誤情報の生成(ハルシネーション)と,有害コンテンツの氾濫があります。
生成AIの応答は真偽をよく吟味したものではなく,学習したデータをもとに「ものすごくそれっぽいもの」を出しているだけです。
それを悪用して,現実とは異なる画像や動画をあたかも真実のように拡散されることがあります。
生成AIを使う際には,回答を鵜呑みにしたり,生成物をそのまま貼り付けたりせずに,「本当だろうか?」「描かれていちゃまずいものは無い?」というように使う側が吟味しなくてはなりませんし,
インターネット上の情報や画像などについても,それが生成AIの悪用によって生成されたものである可能性を頭の片隅に入れて,常に批判的に見ることが大切です。
[ブームの中心] 生成AI。文章や画像,音声や動画などを人間のように生成するAI。
[ブームの注意点] 誤情報や有害コンテンツの生成や氾濫に注意。
活用事例
AI技術を用いたアプリケーションをいくつかご紹介します。
ぱんレジ[分類:画像認識]
トレイ上のパンの種類・値段をカメラで一括識別するシステム

Tesla 完全自動運転[分類・回帰]
カメラを用いた画像認識に加えて超音波センサやレーダーなどのセンサを活用

Google レンズ [分類:画像認識]
画像認識によって、撮影したテキストの翻訳や物の名前の検索ができるアプリ
CS-C社「C-mo」[回帰]

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