国立高専機構長岡高専 電子制御工学科

機能デバイス研究室(梅田研究室)

研究内容1


◆◆電気的過渡応答による圧電素子の大振幅特性測定◆◆


近年、超音波モータや圧電トランスなど、圧電パワーデバイスの研究・開発が活発であり、実用化され始めています。ところが、これらの圧電パワーデバイスを大振幅領域で連続駆動した場合、急激な損失増大による発熱を伴うと共に、その特性が大きく変化する傾向を示します。また、大振幅領域では各部の波形に歪みが生じたり、跳躍・降下現象(ジャンプ現象)などが発生したりする場合があります。ここで問題なのが、その特性変化やさまざまな現象の発生が大振幅応力によるものなのか、温度変化によるものなのかです。厳密に言えば、力学・熱・電気の3系すなわち、応力・温度・電界の3要因に分離した測定を行い、特性評価・解析する必要があります。とりわけ、これら圧電パワーデバイスに要求される項目は、大きな機械的蓄積エネルギが得られ、低損失であることであり、さらに、これらが振動応力に対しても、温度に対しても安定な特性でなければなりません。

そのため、本研究グループは従来の連続駆動による測定法ではなく、圧電振動子にバースト電圧を印加し、短時間だけ大振幅状態を実現し、その時の過渡応答特性より外部電界0の下で圧電素子の振動応力依存性と温度依存性を分離測定する手法を考案しました。この測定法ですと、外部電界0下での温度依存性と振動応力依存性の分離測定が可能であることはもちろん、測定手法が簡便で、一回の測定で大振幅〜小振幅領域までの計測が可能ですし、その測定時間もせいぜい数十m程度であり瞬時に完了します。なお、本測定法と定電流測定法との結果を比較した場合、絶対的な差は多少あるものの、測定時のサンプル温度を考慮した結果は類似しており、本測定法では応力と温度が分離して測定されていることを確認しています。

ソフト材やハード材など、さまざまな圧電素子の特性を測定した結果、興味的な傾向が確認されました。たとえば、機械的品質係数の逆数,弾性定数,圧電定数などの振動応力による変化率は、振動応力の一乗に比例したり二乗に比例したりします。また、各定数の変化率ですが、ソフト材系とハード材系では異なる傾向を示したりします。これらは弾性コンプライアンスや圧電定数のヒステリシスの大小に関係していると考察しています。また、大振動応力領域では、動電流および振動速度において、非線形歪み特性(すなわち、第二,第三高調波成分など)が観察されますが、これらの高調波成分は、基本調波成分の二乗に比例したり、三乗に比例する傾向を示します。これらは、高次の弾性コンプライアンスや圧電定数の影響と考察しています。

さらに、共振周波数近傍で周波数を掃引しながら大振幅駆動した場合、さきほど述べたように電源電流や振動速度に跳躍・降下現象(ジャンプ現象)が発生する場合がありますが、本測定法で得られた大振動振幅時の電気的等価回路定数を用いてその特性を解析すると、共振曲線はその頂点が低い周波数方向に傾く非対称曲線を描き、実測値と同様な傾向を示します。跳躍・降下現象を引き起こす主要因は振動応力による弾性コンプライアンスの変化と考察しています。

以上より、本測定法は、大振動振幅時の非線形現象の解析・解明にも非常に有効な手段と考ています。 今まで不明とされていた圧電振動子の大振幅状態での挙動や現象について、少しずつ解明され始めようとしています。また、新しい圧電材料開発において、そのハイパワー特性評価のお手伝いもさせていただいております。本測定法が、圧電素子の評価や圧電パワーデバイスの開発にお役に立つようであれば幸いです。

 

 

 


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