当研究室で取り組んでいる研究活動について紹介しているページです(暫定仕様)。
データサイエンス (Data Science) とは、データを扱う技術やその技術に関する研究を行う学問分野のことです。 データの具体的な中身(例えば、気温のデータとか、金融のデータとか)に関係なく、 どんな中身のデータについてもデータであれば共通して扱える枠組みに焦点を当てている点が特徴です。 近年ではIoT (Internet of Things: モノのインターネット) の台頭や、 クラウド技術の発展に伴って、様々な対象についてのデータが非常に多く集められるようになりました。 つまりは ビッグデータ の時代です。 データを集めるだけでも多少の意味はありますが、 それらのデータをより詳しく分析することで「利益の増大」や「コストの削減」という価値を生み出すこと、あるいは「データの背後にある現象の考察」を実現することがデータサイエンスの目的です。
データサイエンスのプロフェッショナルのことをデータサイエンティスト (Data Scientist) と呼びます。 2013年には一般社団法人データサイエンティスト協会が設立され、データサイエンティストに必要とされるスキルセットを以下のように定義しました (http://www.datascientist.or.jp/news/2014/pdf/1210.pdf):
当研究室では、卒業研究や特別研究を通じて、特にデータサイエンス力とデータエンジニアリング力を養成していきたいと考えています。
データサイエンス力の構成要素としては以下のようなものが挙げられます。
音の信号やある地点における各時刻毎の気温のデータなど、 時間経過によって変動するデータのことを時系列データと言います。 酒井は後述の重力波データ解析を専門に取り組んでおり、 重力波の観測データも時系列データなので、 時系列解析に関する知識が豊富です。
時系列データをグラフで表すと横軸が時間で縦軸がその時刻におけるデータの値のグラフになります。 この時系列データをフーリエ変換(正確には離散フーリエ変換)をグラフ化すると、 横軸が周波数で縦軸がデータに含まれるその周波数の成分の大きさを示す値のグラフになります。 音叉の音のようにずっと一定の性質のデータであればこのような解析で十分ですが、 ほとんどの時系列データは時刻によって性質(つまり含まれる周波数成分)が変化します。 単純なフーリエ変換ではこのような時刻による変化を調べることはできません。 そこで用いられるのが時間―周波数解析です。 時間―周波数解析では時系列データから、横軸が時間で縦軸が周波数、カラーマップとしてその時刻においてその周波数の成分がどれだけ含まれるかを表すグラフを作ります。
時間―周波数解析手法には短時間フーリエ変換 (STFT: short-time Fourier transform) やウェーブレット変換 (WT: wavelet transform) などいくつかの手法が確立していますが、当研究室では特にHilber-Huang変換 (HHT) と呼ばれる手法を中心に時系列解析に取り組んでいます。 HHTは前述したSTFTやWTよりも[短い時間で周波数が変動する]ようなデータに対して有効であることが知られています。
海の上に船を浮かべるとその船の部分だけ水面が沈みます。 その船が進むと、沈んでいた場所が元に戻ろうとしたり、新たな場所が沈まなくてはならなくなったりという現象の絡み合いで水面に波が生じます。 宇宙空間でもこれと似たような現象が起こっています。 宇宙空間に重い天体があると宇宙空間が沈みます。 その重い天体が加速度的な運動をすると、その運動によって宇宙空間に波が発生します。 この波こそが重力波 (gravitational wave) です。 より正しく理解するにはアインシュタイン博士によって作り上げられた一般相対性理論の知識が必要になりますが、本質的なイメージはそんなに難しくありません。 重力波を観測するということははるか遠い宇宙における天体現象の情報を知り、 宇宙について調べることができるということなのです。
重力波はその発生源の天体の質量が大きければ大きいほど、またその天体の運動が激しければ激しいほど大きな波になるのですが、 考えられる最大級の質量(ブラックホールなど)による重力波を考えても、地球に届く波は非常に小さい微弱なものになることがわかっています。 重力波の存在がアインシュタインによって予言されたのは1916年でしたが、それからずっと観測しようとしても感度が足りる検出器が作れず、信号はノイズに埋もれて検出不可能でした。 それでも科学者たちは、この重力波の直接観測というアインシュタインからの最後の宿題に挑み続け、ついに2015年にアメリカのLIGO(ライゴ)グループがブラックホール連星合体からの重力波の直接観測を果たします。 この功績が認められて、2017年のノーベル物理学賞はLIGOグループの中心人物3名に授与されました。 直接観測の発表は2016年2月でしたので、成果の発表からわずか1年半でのノーベル賞の授与は異例と言える速さでした。
宇宙を観測するというと天体望遠鏡がイメージされます。 学生のお小遣いで買えるレベルの望遠鏡でも土星の輪っかの観測など、宇宙の神秘に思いを馳せるには十分です。 天体望遠鏡は宇宙からくる光を観測するものです。 その他にも宇宙からくる電波を調べたり、ニュートリノと呼ばれる物質を調べたりする観測機関は多く存在しています。 そこにさらに重力波の観測も追加することで以下のような心躍る成果が期待されています。
日本でも現在、岐阜県飛騨市神岡町に大型低温重力波望遠鏡KAGRAの建設が進められています。 当研究室の指導教員である酒井もKAGRAプロジェクトのコラボレータとして、主にデータ転送やデータ管理のシステム開発・運用の役割を担っています。 アメリカのLIGOが重力波の初検出しちゃったから今さら遅いんじゃないか、という疑問を持たれてしまいがちですが、KAGRAの建設には依然として大きな意味があります。 以下はその一例です。